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レンダルは強い衝撃を受けて地面に倒れた。どこにも魔物に食いちぎられたような痛みの感覚はなかった。
少し先に魔物も地面に横たわっている。
魔物はすぐに立ち上がった。脇腹に一本の矢が刺さっている。
大きな口を開いて再びレンダルに跳びかかろうとした時、また矢が飛んできて魔物の背に刺さった。
魔物は大きな声で吠えた。
次の矢をかわして飛んできた方を見る。
何かが砂煙を上げて猛烈な勢いで近付いてきた。
魔物も再び吠えて、そちらに走る。
二つの影が一瞬交差した後、魔物はどっと地面に倒れて転がった。
剣を手にした旅姿の男がレンダルの元に歩み寄ってきた。
「お怪我はありませんか?」
丸顔にちょび髭の男が言った。
「ありがとうございます。私は大丈夫です」
レンダルは服に付いた土を払いながら立ち上がった。
状況がよくわからなかった。とにかく自分は助かったし、魔物はいなくなった。
「お一人で旅をしているのですか?」
男が尋ねた。
「いえ。共の者がいたのですが・・・・、途中ではぐれてしまいました」
「そうですか」
そう言って男は少し考えている。
「もしよかったら、私とウォースターへ同行していただけませんか? いえ、ぜひご一緒して下さい」
レンダルはすっかり怯え、何が何でもこの経験豊富そうな男に守ってもらわなければならないと、必死の思いで訴えた。
「そうですな。あなたはあまり魔物との戦いの経験がおありでなさそうですから、このまま一人にしておくわけにはいきませんな」
そう言いながら男は剣を拭い、鞘に納めた。
「私はグルドフと申します。もう一人の友人と旅をしています」
「私はレンダルです。この国一番の靴職人です。普段はしないのですが今日は特別に私が靴を届けに、はるばるウォースターまで行くところで」
「おーい」
話をしている二人の近くに、マントを着たむさくるしい姿の男が走ってきた。
「彼が一緒に旅をしているポポンさんです」
グルドフがぜーぜーと息を切らしている年配の男を紹介した。
「レンダルです。私はこの国一番の靴職人です。普段はしないのですが、今日は特別に私が靴を」
「靴を届けにウォースターに行くのでしたな」
グルドフが言った。
「はい。それでは一緒にウォースターに行ってもらえるのですね?」
「そうしましょう。今日はマゼルに行くつもりでしたが、本来の予定では明日のはずでした。丁度良いかもしれません」
グルドフの言葉を聞いてレンダルは素早く計算した。
ゴロとトーミスは行く途中で役に立たなくなったから、代金の三分の一も払えば十分だろう。この旅の者たちは明日マゼルに行くという。ゴロたちに支払うはずだった代金の残りを払えば、喜んで私の警護を引き受けてくれるに違いない。
「私も明日、マゼルに帰る予定なのです。もしよろしければ、御一緒願えませんか? もちろん費用はお支払いいたします」
「いいですよ。明日一緒にマゼルへ行きましょう。ただし、費用は頂きません」
「え? いいのですか?」
レンダルは驚いて尋ねた。
「もちろん。私はそれを仕事にしているのではないですから」
「本当にいいのですか?」
「ええ」
「それではお願いします。明日も午前中に靴を届けなければならないかもしれません。正午に出発ということでよろしいですか?」
「構いません」
グルドフが言った。
レンダルはグルドフ、ポポンとウォースターを目指して歩き出した。
このあまり強そうに見えないグルドフという中年の男は、ゴロやトーミスと違って、全然辺りを警戒する様子がない。それなのに自分は守られているという不思議な安心感があった。
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