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ヤクザと女子高生が和んでいる現代の日本とは、全く別の次元の世界の話である。
その星ではかつて、魔族を率いる魔王と、その侵攻から人々を守る勇者の戦いがあった。
戦いは熾烈を極め、激しい戦いに肉体が滅びると、両者は己の魂を転生させて、何代にもわたって戦いを続けた。
或いはそれは、後に神話となる類の、天地開闢に必要な力のぶつかり合いだったのかもしれぬ。
だが、過ぎてしまえば「幾度も戦いがあった」の一文で済んでしまうことでも、当事者にとっては長い苦痛の時間であったのだ。
ある時、力の拮抗により両者は相討ちになり、血を流しながら地面に倒れこんだ。
勇者は、もはや動かなくなった身体を母なる大地に身を投げ出したまま、呟いた。
「なあ……、俺もう、これ飽きてきたかも」
神の子らが争い合うことを嘆くような暗い色の空を見上げながら、魔王もまた同意する。
「戦いのための戦いになっていることは、否定できんな」
「あんまり意味ない気がするし、次の転生ではもうやめないか?俺は戦いに明け暮れるより、もう少し、畑を耕したり、動物を愛でたりしてみたい。よくあるだろ、ナントカ勇者のスローライフみたいな……」
「よくあるのか」
「どこかでよく見かけるような気がしたけど、どこだったかは思い出せない」
「まあ、別の自分を夢想することはなくはないな。茶園を経営して、極上の茶を作るというのには少し憧れがある」
同意を得て目を輝かせた勇者は、起き上がろうとしたが体の痛みに呻いて、それを断念した。
「……いいじゃん。次生まれ変わったら、勇者ってことは思い出さずに普通に生きようっと」
「能力も継承されるのだから、思い出さない方が逆に勇者への道を歩んでしまうのではないか?」
「難しいな。まあいいや。とにかく俺たちの人魔の戦いのサーガはこれでおしまい。次会ったら、美味いもの食って美味い酒でも飲もうな」
「……そうだな」
二人は口元に笑みを浮かべたが、互いの表情を確認することはなかった。
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