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兄妹
俺の母親と妹の由美の父親が結婚した。
俺は聡(さとし)母親の名字は小林。でも、由美の父親と結婚したことで佐々木聡になった。
母親が離婚する前は前の父親の名字で青山聡だった。小林でいたのは2年ほどだ。
佐々木聡になるまで11年。
「な、11年で3回名字が変わるって相当珍しいよな。」
2歳下の由美にそう言ったら由美は一度も名字が変わったことがないので困ったような顔で笑ってた。
由美も最初の母親と今の父親が離婚して、俺と兄弟になるまで3年程、まだ小学校の低学年だったのに母親なしで過ごしてきた。
俺は母と一緒で良かったと思っていた。母が別れた本当の父は養育費もよこさないような屑だったが母は看護士なのでそれ程生活に困る事もなかった。
家事も当然のように母親がやっていた。でも小学校5年生の俺は、カップラーメンくらいは作れたし、食べ終わった食器を台所に下げるくらいはしていた。
由美は父親が金持ちであったためかお手伝いさんのいるような生活をしていたらしい。
金持ちの新しい父親と結婚したので俺の母は専業主婦になった。
由美は最初こそ大層恥ずかしがってはいたが、やはり母親の温もりは嬉しいものなのだろう。すぐに『お母さん、お母さん。』と俺の母親に、いや
、今や由美の母親にもなった母親に甘えていた。
ただ、この生活も長くは続かなかった。佐々木の父はお金はあったが愛情は上手く使えない性格だった。
母は俺が中学生になる頃にはまた看護士の仕事を始め、翌年佐々木の父と離婚した。
俺はまた小林聡になった。
今回は一度は辞めた仕事に戻った母も考えるところがあったのだろう。
俺は小林聡のまま高校を卒業し就職した。
途中で父親だった佐々木の父の仕事は知らなかったが、俺は偶然にも佐々木の父が経営している会社に就職していた。
相手方も俺が就職しているのに気付かずにいて、俺が勤めて3年目に社長の娘が受付として就職して来るという噂が広がった。
何でも一年間留学していて、その後生きたい大学もないので父親の会社に就職する事になったそうだ。
俺も元父親の会社とは、不甲斐ないことにまだ気づいていなかった。
ある朝会社に行くと、見たような顔が受付にいた。
「あれ?由美?」
「え?お兄ちゃん?」
二人で目を合わせ、同時に
「また会えたね。」
と言った。
思いもよらぬ7年ぶりの再会だったが、例え2年でも兄妹として過ごした多感な時のことは忘れない。
俺と由美にはこれ以上の発展はなかったし、佐々木の父と俺が再会することもなかったが、由美は時々俺の家で少しの間お母さんだった俺の母親との、楽しい時間を過ごしに来るようになった。
【了】
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