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なんでも。
よその世界の神様が昔、ノアという人間に箱舟を作らせたというのだ。
堕落した人類が許せなかった神様は、人類を滅ぼして大地をリセットすることを決意。唯一心清らかで信心深かったノアという青年とその家族、動物たちのつがい一組ずつを残し、それ以外を大洪水で洗い流してしまおうと考えたのである。彼らのみを作らせた箱舟に乗せて避難させ、それ以外の人類と動植物は全て水害によって滅ぼしてしまうという算段だったそうな。
ノアが箱舟を作らせ、選ばれし者達だけが箱舟に避難したところを見計らって神様は計画を実行。
一度まっさらになった大地に、生き残った者達は新たな楽園を作り上げた。それが現在の人類の祖先になったとか、うんたらかんたら。
「同じことを、現在の世界でやろうという話になったのだ」
父はぐびぐびとワインを煽りながらそんなことを言った。
「トムよ。そなたは地上に友人がいるそうだな。現代では珍しい、神の声を聴く力を持つ心清らかな人間だと。名前は、クリストファーと言ったか。ふむ、儂も見させてもらったが、なんとも誠実で温厚、しかも勤勉。この世界のリーダーを任せるに足る、立派な若者ではないか」
「そ、そうですね……」
「彼とその家族、それから一部の動物のつがいたちのみ残して、箱舟に乗せてやるのだ。その後は、そなたの力で地上に天罰を下してやるといい。何、今のそなたはこの世界の主神。“雨よ降れ”と一言唱えるだけで、地上を大洪水で洗い流すなど造作もないことよな?」
「そ、それはそうですが」
「ならば決まりだ。早速そなたの友人に話してくるがいい」
上機嫌に次のボトルを開けつつ、父が言う。
「なあに、本人と家族を生かしてやるというのだ。クリストファーも不満はなかろう。彼のような心清らかで争いを好まぬ人間も、きっと今の堕落した世界に不満を持っているであろうからな……」
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