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――いや、ひょっとしてそれさえも父の狙いか?天罰によって神の威光を示し、さらにそうやって困り果てた人類と動物が再び神に縋ることによって、無理やり信仰を取り戻そうと?
だとしたら。
だとしたらそのやり方は、あまりにも。
「親愛なる神、トムよ。確かに、今の人類には多くの問題があるでしょう。度重なる戦争も、環境汚染も、貧富の差や病も。けして無視していい問題だとは思いません」
ですが、と彼は真剣な目を僕に向けてきた。
「それは、人間が進化する上で避けて通れない道でもある。そして避けられない道であればこそ、人間が自分達の手で解決していかねばならないことでもある。……神々に都合の良い、選ばれた一部の人間だけで議論するべきことでしょうか?それ以外の人間は殺して、全て口を塞いでしまえと?ならば私は、口を塞がれる側で構いません。操り人形になり果てるならばそれは、私にとって既に死んでいることと同義であるからです」
「クリス……」
「貴方が計画に反対してくださっていることは知っています。私に話をしに来てくださったこと、心から感謝いたします。……私のような小さな人間を友としてくれたこと、心から嬉しく思う。どうか、お元気で」
「…………っ」
その笑顔は、言葉は。僕にある決意をさせるのに十分だった。
人類には問題が多い。それは間違いないことだ。しかし、果たして神が思っているほど彼らは堕落しているだろうか?自分達の問題に向き合っていないだろうか?何より、生きる価値なしと議論する権利さえ取り上げられるほどの存在であるだろうか?
答えは、否だ。
――親愛なるクリス。僕は、決めたよ。
友人と話をして、天国に戻った僕。相変わらず父と親戚、友人の神々は退屈を持て余して酒盛りばかりしている。
本当に落ちぶれているのは、洗い流されるべきなのは誰か。僕は小さな空飛ぶ船を作り出すと、それにひらりと飛び乗った。一人しか乗れない、小さな小さな箱舟だ。
「雨よ、降れ」
もくもくと天国に黒雲が垂れこめ、土砂降りの雨が降り出した。父たちが気付いた時にはもう遅い。箱舟に乗った僕以外の全ての神々が洗い流され、天国の海へと沈んでいく。
傲慢だと罵られても構わない。天罰があるならば、それもいずれ甘んじて受けよう。
友人に愚かな選択を押し付けるくらいならば、僕が僕自身で選ぶまでのこと。
――クリストファー。君は生きるといい。これからも、多くの家族と友人とともに。
人の幸せを決めるものは、けして神ではないのだから。
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