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自分のグラスに酒を作ると芳江は続木の目を見た。煙草? 不思議に思いつつ芳江は反射的に灰皿のサインを近くのボーイに送る。
加賀山の指示でテーブルの灰皿は片付けられていた。吸わない人の席には灰皿を置かない。当然のことだ。
「吸わないんじゃなかったっけ?」
おずおずと芳江が聞いた。
「ああ。今日で禁煙も終わり」
続木は懐から煙草を取り出す。封をまだ切っていないアメリカ煙草だった。
「どうしたの?」
芳江の脳裏に珍しく苦悩する続木の様子が浮かんだ。別にそういう絵が見えたわけではない。単にそうかなと思っただけである。閃きみたいなものだ。
「さっきまで中華料理屋の個室にいたんだよ」
「ああ、交差点の向こうの?」
「そう」
「・・・で、お客さんと揉めた」
続木はどうして? という顔で芳江を見た。
「相変わらず勘がいいな」
「当たりなんだ」
「接待はうまくいってたんだけどな、最後の最後でおかしな事になっちゃって」
続木はある機械商社の営業課長だ。お得意先をビールと紹興酒で接待していたら余計な話題でお客の部長さんが怒ってしまった、と言うわけである。
「まあ、明日フォローすりゃ、何とかなるんじゃないの? 続木さんが悪いって訳じゃないんだから」
芳江はそう言いながら続木がくわえた煙草に火を点ける。
「だな」
続木はにっこり笑って点けたばかりの煙草を灰皿でもみ消した。
芳江は事の顛末を何も聞こうとしない。多分こんな事なんだろうと、結論だけを言ったのである。全て閃き、勘である。
芳江はこの勘の鋭さを武器にかれこれ10年夜の世界を渡ってきた。
子供の頃から勘は鋭かった。鋭すぎて親にさえ気味悪がられたこともある。だから今はやり過ぎないように注意している。薄気味悪く思われては元も子もない。
芳江は続木が納得したところでまた上体を捻った。真っ赤なドレスに芳江の白い背中が映える。
ここまで捻ると腰まで開いたドレスにシワが寄る。するとビキニパンツの上、お尻の谷間が見えるか見えないかのはずだ。
続木の目が喜んでいる。少しはストレス解消になったかな? 芳江はそう思った。
それからひと盛り上がりして続木は帰って行った。きっちりセット時間だ。
続木は延長しない。アフターも滅多になかった。でも芳江は指名を一本取って売上に貢献。もちろん自分の成績でもある。
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