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テーブルには芳江と杏奈が取り残された。
「あなた、これどういうことなの?」
芳江はこの機を逃さずさっきの名刺のメモを問い質した。
すると杏奈は上川の前のバカっぽい態度とは真逆に芳江を見詰め、顔を近づけた。
「私がその席に座ったの、最初」
「え?」
「この服でしょ、膝が高くなると生パンツ見えちゃって。で、あのお客さんが私にべったりになっちゃったの、それじゃ芳江さんの面目がないから・・・」
ここで、杏奈は言葉を句切ると同時に意味深に再び芳江の瞳を覗き込んできた。不躾な視線だ。
芳江は訳の分からないことを言ってないで、と思う。そんな芳江に杏奈は静かに言った。
「だから・・・、時間を巻き戻したのよ」
芳江は黙って杏奈を見返した。
「あれ? 驚かないのね」
と杏奈。
『ついに現れたか・・・』
芳江は思った。それも最強のエスパーが現れたのだ。
芳江は自分の「勘」、これが一種の超能力に近いものと予想していた。もちろん誰に話せるわけでもないから独学である。その手の本を読みあさって、それなりの知識は持っていた。
「やっぱり、芳江さん。同類なんですね」
杏奈は言ってにっと笑って見せた。
「何か証拠を残したいからテーブルの上に乗ってた名刺にメモを書いたの。上川さんに芳江さんが渡した名刺よ。それを芳江さんの名刺入れに戻しながら、時間を巻き戻したわけ。上川さんと初対面の場面にね」
芳江は努めて平静に杏奈に言う。
「この話はまた後でね。お客様が戻ってくるわ」
芳江が見た方から上川がふらふらと歩いて来ていた。
芳江はボーイからおしぼりを受取り、上川を迎えた。
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