第2話 サイコメトラー

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第2話 サイコメトラー

 席に着いた上川は饒舌だった。会社の本業である投資は人次第で、要はどんな人を見つけられるかに掛かっているんだと上川は言った。  社長もそこは同意していて、だからこそ人材発掘の方に今は注力しているとも、上川は語った。 「先日もね、ある優秀な人材を発掘してスカウトしたよ」  上川が上機嫌で話し出した。 「そうなんですねー」 相変わらず軽い相槌の杏奈だ。 「で、再就職先も決まった。今までは折角能力のある人だったのに、つまらないことにしか使えてなくて・・・。うん、今度はもの凄く有意義に能力を活かせるよ」  この話を聞きながら芳江は黒い雨雲が広がり出すイメージを思い浮かべていた。そして上川の決して酔ってはいない目を、芳江ははっきりと見た。 「そうなんですねえ。その人、会計とか法律とかそういう有資格者なんですか?」  杏奈がお気楽に問いかけると、上川は声のトーンを一段落として、それに答えた。 「いやいや。そんな能力なんかじゃない。勉強が出来るとかそういうレベルの話しじゃないんだ。もっと本能的なもの、人間力だな」  この男は酔ってなんかいない。ふりをして何かを探っているんだ。  危険だ。危険だ。危険だ。芳江の本能がそう叫んでいた。だが、杏奈は上川の思う壺に()まろうとしていた。 「人間力、って凄いですねえ。例えばその方は何が出来るんですう?」  バカ、やめろ、それ以上この男に近付くんじゃない。芳江は心の中で杏奈を呼んだ。  しかし、芳江の勘はあくまで受け身であって人に能動的に働きかけるようなことは出来ない。さっき、この子は自分と同類の超能力だと言ったがとんでもないと思う。  時間を自由に操作できる能力と少々勘がいいのと一緒に出来るはずはなかった。 「サイコメトラー」  上川が一言呟いた。芳江の顔は蒼白になっていた。杏奈はよく聞き取れなかったのか、聞き返している。 「今度スカウトした人はね、手で物を触るとその持ち主の事が分かるんだよ。これは凄いよお、その人の持ち物に触れるだけで考えていたことやその時の状況などを読み取ることが出来るんだから。役に立つよねえ・・・」  上川が蕩々と語っている時、さっきからしきりに腕時計を気にしていた杏奈が突然芳江の手を握ってきた。  何が起こったのか、瞬時には理解することが出来なかった。芳江は戸惑いの表情を浮かべる。隣では杏奈が額に汗を浮かせていた。 「お姉さん。行きましょう」  杏奈はそう言うと芳江の手を取って席を立った。近くのボーイに新規入店してきた客の方を指して言った。 「あそこの席に行かせて。知ってる人だから」  ボーイの返事を待つことなく杏奈と芳江はホールの奥へ歩いて行った。 「交代ですって。あそこのお客さん、今トイレから帰って来られたから。お願い」  芳江に言われて新規客に着こうとしていたホステスは通路を戻っていく。芳江にも杏奈と時間を戻ったことが理解できた。  これで上川がトイレから戻ってからの会話はなかったことになったのだ。
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