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「いったい、あの人何者なんでしょうか?」
杏奈が芳江に聞いたが、芳江はそれを無視してぽつりと呟いた。
「サイコメトラー」
「え?」
杏奈が怪訝そうな顔を芳江に向けた。
「サイコメトラー。それ加賀山さんのことかも知れない・・・」
芳江が不安そうな顔で説明した。
「加賀山さんて部長さんの?」
「加賀山さんね、落とし物の落とし主を探す名人なのよ」
「何ですか? それ」
杏奈が呆れたような声を上げた。
「店にライターが落ちてたとするじゃない。それが誰の物か確実に当てるの。一度クラークのミスでお客様の鞄の取り違えが起きたのね。その時、鞄の中を見ることなく正しい持ち主を当てたわ」
「へえ・・・」
杏奈はしょぼい超能力と言いかけて言葉を飲んだ。人のことを言えた身でないことは分かっている。
サイコメトリングは物に宿った持ち主や触った人物の残留思念を読み取る能力である。そういうともの凄い超能力に聞こえるが、実際は加賀山のように持ち主当てが得意くらいの事なのかも知れない。
芳江は加賀山ともちろんそんな話をしたことなどない。ただ、上川がここへ現れた理由はそういうことじゃないのか。
ところが突然芳江が大きな声を上げた。料理を突いていた杏奈が箸を取り落とす。
「どうしたんですか、驚くじゃないですかあ。お姉さん」
杏奈が胸を押さえながら言った。
「もし加賀山さんがすでに上川さんと契約してたら・・・」
「契約してたら?」
杏奈が繰り返す。
「よく思い出して、杏奈。最初上川さんに挨拶した時、私も杏奈も名刺を渡したのよね。そしてテーブルの上に置いてあった私の名刺にあなたはメモを書いて過去へ戻った。つまりあなたの手書きの名刺はテーブルに残っていた。その名刺はどうなったの?」
「いや、それは多分消えて・・・」
杏奈が答えようとするのを制止して芳江は言った。
「私たちが過去へ飛ぶ前に上川さんがそれを自分の物にしていたら。名刺は残るんじゃないの?」
「え? え? え? 分からないよお。そんなこと考えたこともないわ」
狼狽する杏奈。
「さっきあなたは私を連れて時間を遡った、たった10分かも知れないけど、私を連れて行ったのよ。でも上川さんは連れて行ってない。上川さんのボトルもグラスもそのままよね」
「そんなこと、当たり前じゃ・・・」
「だとしたらあなたの手を離れた名刺はそのままそこへ残る。あるいは上川さんが名刺をポケットにしまっていたら、そこに残るんじゃないの?」
芳江が一気にまくし立てた。
「そうかもしれないけど、それが何だって・・・」
杏奈はまだ了解できていない。
「そのタイムトラベル前の杏奈の名刺を加賀山さんがサイコメトリングしたら・・・。あなたが過去へ戻ったことが分かってしまう・・・。私共々過去に戻ったことが上川さんに分かってしまうわ」
「え? そんな・・・」
杏奈は言葉を失っていた。
翌日芳江は加賀山が店を辞めたことを知った。上川のヘッドハンティングに応じたのである。
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