第二話 夕暮れ時の図書室で

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第二話 夕暮れ時の図書室で

916c4c70-91b9-4709-9f8d-4ecb314c55fd  菜々美は、サッカー部の練習が終わるのを図書室で待っていた。  その間も、栞に電話やメールを続けたが、連絡はつかなかった。  携帯電話ばかりを見ていると、不安が募るばかりなので、図書室に置いてある古い写真の載った、学校の記念誌を見ていた。  その中に載っている西校舎が建つ前の学校外観の写真を見て、写りは悪いが、確かに南校舎の隣に倉庫らしきものが建っているのが確認できた。  当時の卒業アルバムでも確認出来るらしいことは知っていたが、倉庫は本当にあったことをその目で見た菜々美は、嫌な感じに鼓動が激しくなるのだった。  噂の霊、その正体と言われている女性教師とは…。  それは、この学校に当時勤務していた同僚の男性教師によって殺されたというものだった。  女性教師に好意を抱いていたその男性教師はしつこく言い寄るも、誘いを断わり続けられていた。  真剣に、一途に、気持ちを伝え続ければ、それが通じるという男の勘違いであり、側から見れば“諦めの悪い”、“しつこい”だけであったという。  その男性教師に対し、女性教師がはっきりとタイプでもないし、気持ちが向くことなどありえないことを告げたらしい。  すると、男性教師は、“好き過ぎた”故に、ショックを受けると共に、その気持ちが女性教師への憎悪と変わったという。  ある日の放課後、部活も終わり、生徒もいなくなったタイミングと、女性教師が校舎の見回りと鍵しめの担当の日を狙い、倉庫に引き摺り込むに至ったというのだ。  歯止めの効かなくなった男性教師は、女性教師を陵辱したが、“こと”を終え冷静になると、“こんなこと”が学校にバレれば逮捕され、職を失うことを恐れた。  そして、そのまま放心状態だった女性教師を殺し、倉庫の地下室に隠した… というのが、聖華学園に何年にも渡って噂される怪談話に繋がる真相とされている。  廊下の下には、地下室が今もあるとして、要するにその女性教師の遺体がそのまま残されているというのだ。  しかし一見、聞いていると怖くなる話ではあるが、倉庫が実際に学校の用具をしまう場所として使われていたとすれば、当然その地下も何か利用していたと考えられる。  であるとすれば、噂される怪談話が不自然に感じなくもない。  今は体育館の側に倉庫があるが、文化祭やスポーツ大会で使う物など、結構な量の用具の物入れになっている。  写真からは判断しにくいが、写っている倉庫は、今の倉庫より遥かに小さいサイズに見える。地下室があったのが事実ならば、当然そこも物入れとして利用してたと考えるのが自然だ。  それに仮に地下室は使っていなかったとしても、遺体を放置すれば、腐敗臭などで気づくのでは?とも思う。  教師一人が行方不明になれば、学校側も通報し、警察だって動く。そんな猟奇的な出来事があったならば、当時の新聞にも掲載され、怪談話より事件として語り継がれるはずだろう。  怪談の噂話に対して、さして興味のない生徒たちは、そんな風に現実的に否定していた。 「…あら、井上さん、こんなところで珍しい。何か調べ物?」  菜々美の背後から声を掛けたのは、図書委員会の担当している教師、松田(まつだ) 良子(りょうこ)。  四十歳を目前にした、ベテラン教師だ。 「あ、松田先生…」 「そろそろ鍵閉めるわよ、あなたも早く帰りなさい」 「はい……あ!せんせ…」  菜々美は、背中を向けた松田にふと話を掛けた。 「ん?」  菜々美は、“教師として聖華学園に来てから何年になるか?”、松田にそんな質問をした。  唐突な質問に、訝しい顔をするも、松田は顎に手を当て、少し考えた。 「そうねえ、十七年…かな」  西校舎の増築以前なら、あるいは倉庫のことを知ってるかと思ってのことだったが当てが外れた。  松田は、菜々美が開いていた記念誌を見て、小さく頷いた。 「あなた、まさかと思うけど…、怪談話のこと調べてる?倉庫の地下室とかいう」  何とも松田は勘が鋭いなと、菜々美は苦笑した。 「ま、まあそうです」 「井上さんは、そういう話は信じないタイプだと思ってたけど…。誰だっけ?人影を見たって話…。夏休み前だからって盛り上がるなって感じよね」 「あ、ええ…いや、私は信じてるってわけでもないんですけど」  松田は、記念誌を手に取り、南校舎の写真に小さく映る倉庫を見つめた。 「…でも、私がここに新人教師として来た頃から“その噂”はあったのよ。先輩教師達は、皆そのことについては、くだらない噂だって失笑してたけど…」 「…当時の先生で、今も学校にいる人っていますよね?」 「そうねえ…定年前に結構辞められた方多いんだよなぁ。あ、今一年二組の担任の、浅沼先生は、私より前からここに勤めてるけど…」  “浅沼”、来年で定年を迎える男性教師だ。  堅物で、冗談の通じない人物で、果たして倉庫地下室のことを訊いてもいいものか、迷うところだ。  会話の間を空けた時だった。  図書室のドアが勢いよく音を立てて開いた。  突然のその音にビクッとする菜々美。 「おう、菜々美、ごめんごめん!顧問の話長くてさ…」    現れたのは、部活を終えた義弘だった。
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