第五話 学園の失踪者

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第五話 学園の失踪者

2001.7.17 火曜日 二十三時頃… 「え?失踪者?」  菜々美は、別のクラスの“田中 慎吾”と電話をしていた。  遅めの夕飯と、風呂を済ませたあと、ベッドに横になりながら、田中にメールをしたのだった。  “二学年でオカルトやホラー好きといえば、田中”というのは有名だったが、菜々美がオタクキャラの彼と話すことは、これまでなかった。  しかし、義弘が、他に聞く人もいないし、連絡して“話でも聞いてみたら”と、田中のアドレスを送ってくれた。  運動部の義弘も、オタクの田中とは接点がなさそうだが、分け隔てない性格故に幅広く連絡先を知っていたのだ。  女子と縁遠い田中に、菜々美からの突然のメールは、さぞ興奮したようだが、栞が“例の廊下”に、午前一時十三分に行ったみたいだと送るや、 『電話してもいい?』 という返信が来た。  最初は、そんな田中に警戒した菜々美だったが、『メールでやりとりするより、直接話した方が、その件は面倒がなくていい』という返信が来たことで、送ってきた電話番号に掛けたのだった。 『もしもし…いやぁ、いきなり井上さんみたいな可愛い女子からメールとか、イタズラかと思ったよ』  田中はやはり、少し興奮しているようで、菜々美も引き気味に苦笑したが、話はすぐに“例の廊下”の件に移った。  実は、聖華学園にまつわる怪談話が広まったもともとの理由には、二人の失踪者がいるというのだ。  いつの間にかその事件は風化してしまい、怪談の噂だけが残ったらしい。  失踪者の一人は昭和57年。用務員の“岩崎 五郎”。  もう一人は、昭和60年。宿直担当だった教員の“今村 瑞穂”。  でもそれが事実だとしたら、結構な事件じゃないだろうかと、当然そう思う菜々美。  しかし田中は、“そうならなかった理由”があるのだと説明を始めた。  もともと用務員の岩崎は、勤務態度が悪かったという。遅刻したり、休んだりと、時には突然生徒に怒鳴るなど、用務員として評判はよくなかったらしい。  しかも、独身。  両親はすでに他界し、親戚付き合いもなかったようで、学校側も一応警察に届けは出したが、気に留める人がいないのでは特に大きな騒ぎにはならず、メディアがニュースとして扱わなかったと思われるという。  もう一人、その三年後に、宿直中に消えたとされる女性教員の今村は、家族がいなかった。  施設育ちというハンデを乗り越え、教師になったこともあってか、生徒たちに優しい良い先生だったらしい。  特に友達の少ない生徒、虐められてる生徒や、何かに悩んでいる生徒には親身になっていた。  しかし、その優しさが仇となり、男子生徒に好かれやすかったらしいのだが、その内の一人と関係があったと噂された。  関係の真実は不明だが、その男子生徒はある日駅から身を投げ自殺をしたという。  さすがに“その件”は昔の新聞に掲載されたらしく、田中は都内の図書館で確認したと言った。  だが、身投げした男子生徒の周辺からは、遺書らしきものら見つかることはなかったという。  自殺か事故かはっきりしないまま、いつの間にか“関係のあった今村に別れを告げられたことが原因では?”と、学内での噂が広まるようになった。  そして今村は、その後失踪。  この件についても、学校側は警察に届けを出したが、今村に身内がいないことで、あまり大ごとにはならなかったようだ。 「…ちょ、ちょっと待って、田中君。それ、詳しすぎるよ」  菜々美は、話の途中から体を起こし、真剣に聞いていた。 「…え、今の話、信じてくれるんだ?嬉しいなぁ」  田中はまた興奮気味にそう返した。  この話には、更に続きがあり、 “例の廊下“が、ここで出てくる。  岩崎は、勤務態度が悪かったので、失踪した日が正確ではないが、警察に届けを出す数日前に、例の廊下に、学校のマスターキーが落ちていたというのだ。 「…マスターキー?」  一体それが、岩崎と何の関係があるのだろうかと考える菜々美に、田中は少し間を空け、答えた。 「…いや、実はそのマスターキーは不正に複製されたものだったって話があってね」 「それと、その用務員の人にどんな関係があるっていうの?」 「うん…当時、学校から物がなくなることが、よくあったんだそうだ。例えば、女子の体育着とか」 「え?体育着?」 「そ。他にも色々とね。それが、岩崎失踪後に、ピタリとなくなったらしいんだ」  要するに、岩崎は表の姿だけではなく、夜な夜な不正に作ったキーでコソ泥のようなことをするという、裏の姿もゲスだった、という可能性があった。  自宅からはそれらしい物は出てこなかったが、盗むことに興奮や快感を覚え、そのあとはすぐに処分するタイプの者もいるらしいことから、岩崎もそうだったのではと、田中は推測しているという。  一方の今村は解りやすく、例の廊下に見回りで使う懐中電灯が落ちてたらしい。  翌朝、電気のつけっぱなしの無人の宿直室を見て不審に思った教員たちが学内を探し、例の廊下に懐中電灯が落ちていたとのを発見したという。 「ねえ…その、色々と興味深いんだけど、田中君…その話はどこから集めたの?」 「僕の情報収集力に驚いたかい?はっはー」  得意げに声高になる田中。 「…ま、まあ」 「いや……この手の話を話集めるのは好きだけど、正直言うと、実は叔父も叔母も聖華の卒業生でさ、話の出元はそこ」 「そうなの!?」 「図書館で調べたり、あとは僕の推測混じりではあるけど、失踪者二名の話の信憑性はしっかりしてるよ」  田中は、“廊下に出る女の霊”、“床下に引き摺り込まれる”という怪談話を聞いた時、学園から実際失踪した人物が二人もいる事実に、驚愕しつつ興奮を覚えたと言った。  菜々美は落ちていた栞のピアスを思い出し、田中の話には人知れぬ真実があると強く思うのだった。
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