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伊藤(橙)
小学生の時から地域の剣道教室に通い始め、中学の部活でもそこそこの成績を残してきた。
強豪校への進学を考えなかった訳じゃない。
だけど俺は近場の都立高校を選んだ。
理由は二つ。まず一つ目は近いから。
遠距離の通学で強豪校に通っても多分キツくて続かないと思った。
そして二つ目、それは同じ剣道教室で切磋琢磨し合ってきた親友がいるからだった。
こいつが一緒なら弱小剣道部でもそこそこ行けると確信があった。
5月の支部予選に、俺たちは個人と団体でエントリーをし、難なく都大会出場を決めた。
我が校始まって以来の剣道部の活躍だった。
朱里にはいつも犬をあやす様に扱われている。それも悪くはないのだが、俺が一番自慢出来る姿を見て欲しい。
渋々だったものの、都大会を観に来てくれた。
初戦からずっと、面を外してから見上げる観客席の朱里は真っ直ぐに俺を見ていてくれた。
一瞬の隙を突かれて決勝で負けた。
勝てると慢心していた。
情けなくて顔を上げられなかった。
エントランスから出ると、待っていてくれた朱里が
「お疲れ。カッコ良かったよ‼︎」
そう言って笑ってくれた。
「…また、観に来てよ。次は必ず勝つから」
「当たり前だよ‼︎全部観に行く‼︎」
朱里は俺の頭を優しく撫でてくれた。
泣いたのは、悔しかったからじゃない。
嬉しかったからなんだ…。
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