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いつからだったか…よく視線を感じていた。
目を向けるとその先には大体いつも同じ女の子がいた。
名前もクラスも分からないけど、何でだか少し気になった。
長い黒髪の大人しそうな彼女は、二つ隣のクラスの高橋桃菜さん。
廊下だけじゃなく、たまに美術室から送られてきていた視線もやはり高橋さんのものだった。
文化祭の展示で見た彼女の絵は、ど素人の俺でも分かるくらい飛び抜けて上手かった。
「うわ、上手い…」
「あ‼︎」
当番交代で美術室に入って来た高橋さんは俺に気付くと、驚いた様に声を上げた。
「あ、高橋さん…」
「え⁈え?何で?」
「…これってさ」
「…」
「俺…だったりする?」
「ごめん。勝手に描いたりして…」
「いや、いやいや‼︎全然全く‼︎すげぇよ…」
オドオドしていた高橋さんの目がまん丸に見開いてキラキラして見えた。
「良かった。ありがとう」
「これ、くれないかな?ダメ?」
「あ、大丈夫。貰ってくれたら嬉しい」
俺は翌日の夕方、絵を受け取った。
タイトルは『追いかける』
白球を追う俺の後ろ姿が描かれた水彩画を自宅のタンスに飾った。
「やっぱすげぇなー。野球、好きなのかな?」
高橋さんのためにも頑張ってレギュラーになって甲子園に出たい。
是非とも甲子園バージョンも描いて貰いたい。
優勝して、紫先輩と抱き合うシーンを妄想して1人で笑った。
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