1on 1

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「……辻?」  ボールを抱えて私の後ろに立っている辻は、体育館に差し込む朝日を受けて、光の中にいる。  落ち込んでいる私にはその姿が眩しすぎて、思わず顔を横に背けた。 「東条?」  辻も男バスでスタメン獲得した。私と同じSG。  でもこいつは、私と違って絶好調。それがなんだか悔しい。  明らかに変な態度を取ったのに、辻は平然と隣にしゃがみ込む。 「な、なによ。辻も朝練?だったら私の事はほっといて」 「なんだ?その可愛くない態度」 「別に辻に可愛いなんて思われなくてもいいもん。いいから向こう行ってよ。一人になりたいの」 「そんな落ち込んだ姿見せておいて、ほっといてって。逆に『構って』って言ってるようなもんだろ」 「なっ……」  ムカつく!なんでこいつにこんな事言われなくちゃいけないのよ! 「あんたにはわかんないのよ。絶好調だもんね!」 「あーわからないね。落ち込んだって打てるようになるわけじゃねーだろ」  そうだけど。  そんなのわかってるけど! 「あんたって、ほんと無神経!もうちょっと気を遣ってくれてもよくない?」 「ほっとけって言ったり気を遣えって言ったり、めんどくせーな。考えても仕方ねーだろ?解決法は一つだ」 「は?」 「朝練。付き合ってやるよ」  なんて上から目線。  ムカつくったらありゃしない。  だけど、こいつのシュートフォームは綺麗で。  今はどれだけ打っても光が見えない私にとって、この申し出はありがたいものだった。  ムカつくけど。なんか悔しいけど。 「……お願い、しま、す」  素直になんて言えないから、そっぽを向いて呟いた。  そんな私の言葉は、辻に届いたみたいで。 「まかせとけ」  クシャッて髪の毛を撫でてきた。  それ、やめて、本当。
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