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「ところでさ、奈子ちん」
「……なに?」
真希ちゃんがわざわざ『奈子ちん』と呼ぶときには、大抵なにかがある。
「私、今日。鍵当番なの忘れてた」
「ええ!?」
鍵当番は部員順番に担当していて、最後に部室のドアを施錠して職員室へ鍵を返しに行かなくちゃいけない。
「まずいじゃん!戻ろうっ」
「それがね。私、今日これから塾の小テストなんだよね」
「なっ……」
真希ちゃんが大きな身体を曲げて、お願いポーズをしてくる。
「今日だけ、代わって」
「……んもうっ!今日だけだよ」
「さんきゅー、奈子ちん。大好きーっ」
本当にもう、調子がいいんだから。
でも小テストなら仕方がない。
「じゃあ私、学校に戻るから。今度、私の時に代わってよ」
「おけおけ~。じゃあよろしくっ」
笑顔で手を振ったら、なんだか足取り軽やかに離れていった。
本当に小テストあるんでしょうね?
「まぁいいや」
私の方は特に予定があるわけじゃない。
かといって暗くなるのは嫌だし。さっさと戻って、早く済ませよう。
真希ちゃんと反対方向。今まで歩いてきた道のりを、足早に戻ることにした。
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