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下校からまだそれほど時間が経っていなかったこともあり、先生からも特に注意されず、職員室に鍵を返却した。
さて、帰ろう。
そう思っていたら、体育館の明かりがまだついていることに気づいた。
━━誰か、まだいる?
近づくと、ボールの弾む音が聞こえる。
部活の時間終わってるのに、まだ誰か練習してる?
そっと覗いてみれば、シュート練習を繰り返している男子がいた。
「……辻?」
シュートを放ち、ボールを取りに行き、ドリブルでフェイントを加えながらまたシュート。
黙々と打ち続けている。
「東条?」
覗き見していた後ろから急に声をかけられて、ビクッとする。
振り返れば男バスの顧問の先生がいた。
「どうした?こんなところで」
「あ、いや」
別に悪い事しているわけじゃないのに、こっそり覗いていたのがバレて、何だか気恥ずかしい。
でも先生も私が何を見ていたのか、すぐに気がついた。
「まーたやってるのか。辻」
「また?」
先生は首をすくめて教えてくれた。
「あいつ。ほおっておくと全然帰らないんだよ。ずっと練習しっぱなし」
「そうなんですか?」
「三年が引退してからな。熱心なのはいいが、体を酷使するのは故障の原因にもなる。気づいたらやめさせてはいるんだが。しょうがないな」
そうボヤキながら先生は体育館へと足を進めていった。
先生と少し言葉を交わして、辻は片付け始めた。
なんとなく、私は辻と顔を合わせられなくて、そのまま体育館に背を向けた。
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