魚さん

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魚さん

 魚さんと初めてオフ会をしたのは、二年前の夏だった。汗っかきな僕は服の匂いを気にしながら、魚さんは美容院に行った後の前髪を時々指でつまみながら、安いカラオケボックスに入る。最初こそ、緊張でぎこちなかった二人だが、それも本当に最初だけ。すぐに共通の趣味である物書きの話で盛り上がり、カラオケに来たのに、何時間もお互いの作品について語り合っていた。 「やまびこさんの作品って、重いですよね」 魚さんは涼しい声で言った。 「あはは……大体、世界への呪いみたいな内容ですしね。病んでるっぽいですかね?」 「違う、病んでるとか暗いとかじゃなく、叫ぶ魂の重みなんです。……そして、私はそれに時々、救われるものを感じます」 胸の奥がすうっとする、心地よさ。照れ隠しに一口飲んだジュースは、炭酸が強かった。自分に酔っていただけかもしれない。あるいは、僕は魚さんが好きだったのかもしれない。自分の気持ちすら、自分で理解するのは難しい不器用な僕だった。
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