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コートのポケットに手を突っ込んで、早足に街を歩く。冷たい北風が暴力的な寒さで背中を押す。
『自分の人生は、自分にしか救えない』
千鶴さんに向けて言った言葉が、角度を変えて自分に突き刺さる。誰かを救いたいとか、そんな大層なもんじゃないけど、僕にだって信念があった。自分の叫びが誰かの心に寄り添えたらって思ってた。それは嘘じゃなかった。だけど、その奥底にあるのはいつだって、『そうなることで自分を救いたい』というエゴだった。僕は僕の叫びを愛したかった。愛せるようになりたかった。おもむろにスマホを手に取る。悴んだ手で検索したのは、魚さんのアカウント。当然、更新は一年前の日付で止まったまま。画面の仄かな温もりを、両手で包む。小綺麗な言葉なら、いくらでも浮かぶ。『魚さん、愛しています』とも『魚さん、貴方を許しません』とも言える。でも、どれも違うような気がして、僕はもう少しだけ、彼女のいない世界への孤独に、一人酔っていることを選んだ。
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