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返ってきたのは、ごくシンプルな答えだった。僕は断られなかったことに安堵しつつ、プルタブを開けた。彼女も開けようとしているようだが、手が震えていて上手くいかないみたいだ。
「夜になるとすっかり寒いですよね」
と言って僕が開けた方の缶を渡して、彼女の持っている缶を引き取った。そばの街灯が彼女の顔を照らしている。その顔には涙の跡があった。
ああ、人を待っている訳ではなさそうだ。
この人は、一人になりたかったのだろうか。僕と一緒で。でも、僕とは違って緊急事態だったのかもしれない。だって、そうでなければ男子高校生が居眠りしている公園なんかにとどまらないだろう、普通だったら。
彼女から顔をそむけると、元のベンチに戻った。昼間だったら立ち去っていたところだが、人気のない公園に女の子一人を残して何かあったら、この場所はお気に入りではなくなってしまう。そう理由をつけて、スマホでアプリゲームを立ち上げた。
プレイしていたゲームのライフがなくなり、他のゲームを立ち上げようとした頃、右側から微かな風を感じた。僕が意識を右に傾けたとき、彼女はもう目の前に立っていた。
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