5人が本棚に入れています
本棚に追加
もう母はいなくて、でも僕は生きていて、だとしたらこの環境すら利用してやろうと決めた。いつまでもガキのまま怒って意地になったところで何も得られないと、そう言い聞かせた。そうして冷めて諦めたふりをして、大事な何かを失くしたような感覚を無視して僕は今生きている。
「じゃあ、また」
なんとなく一緒に公園を出た彼女は、こちらを見てそう言った。また、と。
また会うことなんてあるのだろうか。僕は不思議に思いながら
「さようなら」
と言って背を向けた。
なんだか少し、温かい時間だった。一人で、独りじゃないような時間だった。首をすくめて歩きながら、そう思った。
翌週の月曜日。気だるい朝の教室に、イレギュラーな事態が発生した。
高校二年の秋、丁度高校生活が半分終わって目新しさも無くなってきた頃に、やってきたイレギュラー、転校生。僕の隣に席が追加されているから、ここの席になるんだろう。
ガラガラとドアを開けて、担任の後に続いて入ってきたのは、あの日とは違って見慣れた制服に身を包んだ、あの日の彼女だった。
「はじめまして、遠藤沙夜です。よろしくお願いします」
最初のコメントを投稿しよう!