秋風の音がきこえて

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 新しい環境への不安も期待も感じさせない声をしていた。あの日弱って見えた子とは思えないくらいに、凛とした空気を纏っている。  僕は多分、呆けた顔でその様子を眺めていた。そうしていたら、彼女と目が合った。ほんの少しだけ、彼女は口角を上げた。 「じゃあ、遠藤さんは一番右後ろの席だから。よろしくな」  担任はそう言うと、ざわざわしている教室はお構いなしで朝のホームルームを続けた。  彼女――遠藤さんは教室の後ろまで歩いて僕の隣の席の椅子を引いた。 「ねえ、名前何て言うの」  彼女は僕に問いかけた。 「本条直。よろしく」  まだあまり回らない頭でそう答えた。 「また、会ったね。同じクラスとまでは思わなかったけど」  彼女は少し笑った。 「びっくりした。まあ、転校したばかりでしばらく慣れないだろうから、なんか分からんことがあれば、聞いてよ」 「ありがとう」    そんな無難な会話をしていたらホームルームが終わった。  一限が始まるまでのわずかな時間で、遠藤さんはたくさんのクラスメイトに囲まれていた。僕は隣でそれを黙って見ていた。
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