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それから月日が経ち半年後、誠は会社の同僚である美紀と交際を始めた。
元々仲は良かった。しかし当時はまださやかと付き合っていたため、彼女との仲は恋愛まで発展しなかったのだ。
誠がさやかと別れたあと、彼の心を癒やす形で二人の仲は接近していき、最終的には誠からの告白で交際するに至った。
美紀はさやかとは違い明るく前向きで、快活な女性だった。彼女と一緒にいると元気がもらえる。誠は美紀といるうちに、さやかのことを完全に忘れることができた。
そんな誠がさやかのことを再び思い出すことになったのは、美紀との三回目のデートの時だった。
この日はショッピングをしたあと、近所の公園で美紀の作った昼食をとる予定だった。美紀の料理が美味いことは会社のランチで知っていたので、誠は楽しみしていた。
デート当日。美紀は公園でお弁当を広げた。誠は出された弁当の色鮮やかさに感嘆したが、同時にある違和感を覚えた。
アスパラのベーコン巻き。ロールキャベツ。ハンバーグ。ぶりと大根の煮物。しょっぱい卵焼き。
自分の好物ばかりがはいっている。確かに美紀との会話のなかで誠は、自分の好きな食べ物のいくつかを彼女に話すことがあった。しかしここまで細かく話した記憶はない。
特にアスパラのベーコン巻きやしょっぱい卵焼きに関しては、限られた人しか知らないはずだ。例えば母親。たまに母の代わりに料理を作っていた姉。あと......さやか。
「どうしたの?」
美紀は誠を覗きこむように見た。誠はとっさに笑顔を作り言った。
「いや、すごいなと思って。俺の好物ばっかりだ」
「え、そうなの!? 嬉しい~! 早起きして作った甲斐があったわ」
「いやほんとに。アスパラのベーコン巻きとか。好きでよくお袋に作ってもらってたんだ」
「あー、そういえば、運動会の日は必ずお母さんが作ってくれたって前にいってたね」
「え......そうだっけ?」
「え、覚えてないの?」
「いや、覚えてる、覚えてるんだけど」
その話をしたのはさやかだけだ。
「......大丈夫?さっきから変だよ?」
「ああ、うん、大丈夫。いただきます!」
これ以上考えると、また美紀を心配させてしまう。誠は気がかりな部分を頭の中に残しながらも、とりあえず目の前にある好物達を食べることに専念した。
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