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「なんでさやかがここに?」
「彼女と私、お友達だったの」
突然後ろから美紀の声がして、誠はとっさに振り返ろうとした。しかし彼女はすでに誠の真後ろに立っていて、彼が振り向く隙を与えなかった。
「そんな話......きいてないぞ」
「私も今日、あなたが家にくるなんて聞いてないけど」
「......無断に家に入ってすまない。どうしても確かめたいことがあってきたんだ」
「確かめたいこと?私達に隠し事なんてないでしょ?」
「あるだろ。美紀は俺のことを、あまりにも知りすぎている。なぜだ?」
「まー君とは付き合うから数えると、もう8年の一緒にいるのよ?それなりに知っていて当然じゃない?」
「違う、そんなレベルじゃない。俺が知る限り、さやかにしか話していないことですら、お前は知っていた!おかしいだろそんなの」
「それは......」
「お前がさやかの知り合いだからか」
「そうね。まさかあなたがさやかさんの元彼だとは思わなかったけど」
「そうか」
誠はさやかの座っているテーブルに近づいた。
「ちょっと。どうするつもり?」
誠は眠っている様子のさやかの肩を揺さぶり、言った。
「起きろ、さやか、話がしたい」
「ちょっと、やめてよまー君」
美紀は慌てて誠を止めようとするが、それでも彼はさやかを起こし続けた。
「そのまー君って呼び方やめろ! それは、あいつが俺を呼ぶときに使ってたなま......」
「平山、君?」
さやかが目を覚まし、誠に向かってそう言い放った。
「さやか、なのか?」
「誰よ、さやかって!? てかなんで平山君がうちにいるわけ!?」
平山君。さっきもさやかは誠をそう呼んでいた。彼のことを平山君と呼ぶのは、基本的に会社にいる人間だけだ。誠は自分の気持ちを抑えるつもりで一度唾を飲み込み、言った。
「美紀、なのか?」
「なにいってるの平山君......そうに決まってるじゃない」
美紀はさやかの顔で、そう言った。
おそるおそる誠は、背後にいた美紀の姿を見た。
彼女はまるで、いたずらが親にバレてしまった子どもような顔で誠を見ていた。
「お前......だったのか?」
「そうだよ。また会えたね、まー君♪」
「み、いや、さやか、これは、どいういことだ」
「いったよね?離れていてもずっと一緒だっ」
「きゃあああああああああああああ!!!」
さやかの言葉を遮るように、美紀はさやかを見て大きな悲鳴をあげた。
「な、なんであたしが向こうにいる、の......? じゃあ今私だれなの?」
「ちょっと、うるさいなぁ」
さやかは軽く舌打ちをして、美紀のところ向かい、彼女の頭を掴んだ。
「なにするの! 離して!」
美紀をなんとか抵抗しようとするが、それでもさやかは止まらない。
「大丈夫、もう二度とあなたは起きることがないから」
「それ、どういう......」
パチン!!! さやかが大きく手を叩いたそのとき、美紀は再び深い眠りについてしまった。
「お前、美紀に何をしたんだ」
「さぁ? 何をしたと思う?」
「ふざけんな!いますぐ彼女をもとに戻すんだ!」
「戻したら、誠は私と結婚してくれるの?」
「それは......」
当然するはずがない。しかしもしそう言ってしまったら、美紀は一生もとに戻らないかもしれない。ならば選択肢は1つしかない。
「する。お前と結婚するよ」
「ほんと、嬉しい!」
さやかは、さきほどと同じように美紀の頭を掴んだあと、パチン! と大きく手を叩いた。
再び美紀が目を覚ましたその瞬間、誠はさやかを勢いよく突き飛ばした。転んださやかを横目に、誠は強引に美紀の手を引っ張り、彼女に言った。
「にげるぞ!!!」
美紀は小さくうなずき、2人はその場をあとにした。
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