2人が本棚に入れています
本棚に追加
「別れよう。お前とはもう無理だ」
誠は吐き捨てるように、さやかにそう告げた。時刻は深夜2時。二人が同居するマンションのリビングで、夕飯を食べている最中だった。
「なんで、噓でしょ?ねぇ噓よねぇ!?」
さやかはとびかかる勢いで誠に近づき、彼の肩を揺さぶった。
しかし誠は一切動揺をみせず、彼女の腕を掴みこう言い放った。
「もう疲れたんだ。毎日毎日、1時間おきに連絡よこすなんて、普通じゃないだろ」
「なんで、なんでそんなこと言うの!? まー君が私に心配させるようなことするからじゃん」
「だから何度も言ってるけど、美紀はただの会社の同僚で、それ以上でも以下でもないんだ」
「ほらやっぱり!一言もあの女の話しだなんて言ってないのに。自分から話すってことは、やっぱり何かあるんでしょ!?」
とりつく島もないさやかの態度に、誠は溜息をつき、天井を見上げた。
「とにかく、もう別れよう。さやかの愛は俺には重すぎる」
「嫌だ!絶対嫌だ!!!まー君、付き合うときに言ってくれたじゃん!ずっと、どんなときもお前の側にいるって!」
「......あの頃の気持は、もうない」
そういって誠はうなだれた。
「......私、あきらめないから」
空気が変わった。誠はなんとなくそんな気がした。
「さやか、あのな......」
「どんな時も離れない。誠からいったんだよ?それに私は応じた。この意味、わかってるよね?」
「深い意味はないだろ、ただあのときはそれがきっかけで、お前との交際が始まっただけだ」
「違うよ」
「え?」
「違うよ、全然違う。誠、やっぱりわかってなかったんだ。これは契約なの。契約は交わされた時点で、後戻りはできない」
誠はいつもと明らかに違うさやかの雰囲気に、身のすくむのような感じがした。別れたことによる悲しみや、怒りの感情とは違う、何か別の違和感がある。
「とにかく、もう決めたことだから。」
そう言って誠は早々と玄関に向かった。急いで靴を履く誠の背中をみて、さやかは一言こういった。
「これからもずっと、一緒だからね」
その言葉に妙な寒々しさを感じた誠は、急いでさやかの家を出た。靴はまだきちんと履けていなかったが、それでも早足でその場をあとにした。とにかく、一刻も早くこの場から離れたかった。
最初のコメントを投稿しよう!