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個太郎は或る遊園地に来ていた。公衆トイレを出た時、メリーゴーランドの方へ駆けていく少女が目に留まった。純白のワンピースのフリルやレースをひらひらふわふわさせながら走る姿が大勢で賑わう中で一際、異彩を放っていたのだ。
その後、回転床が稼働すると、喜々として木馬に跨がり上下する少女を個太郎は一心に目で追っかけた。やがて柵越しに個太郎が見ている前まで回った時、少女が個太郎に向かって微笑んだ。その笑顔は媚を売るようであった。で、期待通りの美少女だと分かった個太郎は、当然、嬉しくなったが、面識がある訳じゃないし、偶然だろうと冷静に考えた。ところが二週目も自分に向かって微笑んだので個太郎はあれ、どういうことだと不思議になりながら猶も目で追っかけた。すると、三週目、今度は笑いながら手を振って来たので、これは間違いなく僕に対してだと歓喜した個太郎は、手を振り返そうとしたが、間に合わなかった。だから今度こそと思って待ち構えていると、自分の影より大きい背後の人影が視野に入った。それが手を振り出すのと美少女が手を振り返すのを確認した個太郎は顧みると、影の正体がけばけばしい服を着、アクセサリーをふんだんに身に付け、金縁眼鏡をかけた金満家らしい老婆と分かり、何だ、ばあちゃんと孫か、そりゃそうだわなとがっくり来てしまった。そのショックの度合いはマスク美人がマスクを外してブスだと分かった時、或いは本人と会ってSNSにアップした自撮り写真が写真加工アプリで見栄え良く思い切り盛った偽造写真だと分かった時、或いはAVの動画を見てジャケット写真の顔やおっぱいの大きさが矢張り何かの方法で以て見栄え良く思い切り盛った偽造写真だと分かった時と同じ位だった。だからこういうフェイクはよくあると今時の早熟な少年は思うのだった。そんな個太郎に老婆はしわがれた声で言った。
「あたし、メリー喜多川っていうんだよ」
「えっ?」
「ふふ、驚いたか?それともビビったか?」
個太郎は確かに驚いていた。そして老婆の不気味な笑顔にビビっていた。
「ふふ、驚きもビビりもせんでええ。あたしはメリー喜多川の幽霊でもなし、只、最近、児童性加害で話題になってるジャニー喜多川とメリーゴーランドに引っかけてメリー喜多川って言ってみただけや。ホッホッホ!」
老婆は心から楽しんでいるようだった。やがて美少女が帰って来ると、彼女を弄びながら個太郎の下を去って行った。
それを目で追っかけながら個太郎は独り言ちた。
「ハラスメントばばあ…まやかしばばあ…」
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