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目が覚めたとき、窓際に置いてあった鉢植えに咲く花が枯れていることに気がついた。
「あら、お花枯れてしまったのね。大変だわ」
カレンは鉢植えを持って机の上へと置く。茶色く萎んでしまった花は、元気をなくしていた。
この国では、愛する者へ花を贈るという習慣がある。夫のマルクは長い長い遠征へと出かけている最中だ。彼が帰還した際に花が枯れていてはいけない。
彼女は早速、街の花屋へと向かうために隣の家に住むミドリを誘った。
「ねぇミドリ、お花が枯れてしまったの。一緒に花屋へ行ってくれない?」
カレンと同い年のミドリは、「ええ、もちろん」と笑顔で答えた。
身支度を終えたミドリは夫に行き先を伝えたようで、部屋の中に向かって手を振りながら出てくる。
「お待たせ」
二人は街中を歩いた。
「やあカレンにミドリ。今日もいい天気だね」
近所に住むパドルという男性が声をかけてきた。口ひげを生やしたダンディなおじさんだ。
「あらパドル。そうね、青空が綺麗でとても気分がいいわ」
「私は君たちのような美人に朝から会えて、気分がいいよ。はっはっはっ」
「まあパドルったら。お上手なんだから」
二人は再び歩き出す。するとまた別の人から声をかけられた。
「おはようカレン、ミドリ。今日もニコニコして楽しそうだね」
「そうね。ミドリがいてくれるから楽しいわ」
「あははは、二人は本当に仲がいいなぁ」
「うふふふ。ではごきげんよう」
カレンはこの街では人気者だった。人とすれ違う度に声をかけられる。その美貌に見惚れてしまう者だけでなく、彼女の明るいキャラクターによって心が癒されるという人も多い。カレンのことを知らない者はこの街にはいないと断言出来るほど、彼女の存在は知れ渡っていた。
花屋へと到着した二人は、店先に並べられた花を見ながら笑みを浮かべる。
カラフルな花たちが咲き乱れ、それを眺めているだけで心が穏やかになってくる。
「いらっしゃいませ」
奥にいた若い女性店員が二人に声をかけてきた。
「ど、どのようなお花をお探し、でしょうか?」
彼女は新人なのか、辿々しい言葉で接客を行う。
「あなた新人さん? あまり見かけない顔だけど」
カレンがそう聞くと、女性店員は少し緊張気味のまま答えた。
「……ええ、まだこのお店に勤めて、一週間も経っていなくて」
「あらそう。それは初々しいわね。頑張ってね。応援しているわ」
カレンは彼女の肩を優しくさすってあげた。確かに少し緊張していたのか、彼女の肩は若干震えていた。
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