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『具体的に、おまえは現世に戻ってなにをしたかった? おまえを死に追いやった遊川という人物を警察に逮捕させるつもりだったのか』 『当然だろ。殺人を犯したのに罰を受けないなんて、そんなの、どうやって納得しろって言うんだよ』  私は白い札に冷ややかな一瞥をくれてやる。  この宅間という青年はしばしば「納得」という言葉を使うが、こうして冥界を脱し、現世に舞い戻ったところで心から納得のいく回答が得られるとは限らない。むしろその逆で、知らないほうが幸せだった真実を掴んだ前例もあるくらいだ。  いずれにせよ、現世で起きた事象を過去に戻ってひっくり返すことはできない。また、未来を大きく変えることもほとんどの場合は叶わない。であれば、おとなしく冥界で生まれ変わりの時を待つのが最善の選択だと私などは思うわけだが、欲や感情に日々揺さぶられながら生きる人間という生き物は、どうやらそうやってうまく割り切ることのできないものを往々にしてかかえてしまうようである。  ため息をつきたいところをどうにかこらえ、私は白い札に問いかける。 『だが、警察の捜査で自殺という結論が出ているのだろう。どうやって現状を覆す?』 『どうにかするさ。まずは俺の存在に気づいてもらって……ほら、あれだ。ポルターガイストだっけ』  なるほど。確かに霊体となった魂は現世における物理的な作用を受けるか否か、自らの意思で選択することができる。言い換えれば、彼がなにか物を掴んで警察官に向かって投げつけることは可能であり、そうした霊的な現象をポルターガイストと称したりする。  なぜ彼ら霊体がこうした少々過激な行動に出るかというと、霊体が選択できない物理現象として、声を発すること、自らの姿を現世の者に見せることが挙げられるからである。つまるところ、呼びかけに応じてもらえない代わりに物を投げ、自らの存在をアピールするというわけだ。  とはいえ、もちろんこうしたことは冥界のルールに当てはめれば御法度である。だからこそ私がいる、と言えばわかってもらえるだろうか。  要するに、冥界に召された魂は現世に生きる者に対し影響を与えてはならないのだ。だから私は冥界からの脱走者を捕獲し、その魂を食らう。霊魂が現世で暴れることのないように。現世の秩序を乱すことのないように。
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