奇縁氷人石

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 と連れていこうとする。置いて行って悪かった、ごめんなと謝っている。あのとき俺が言いたかったこと、きっとサクが聞きたかったことを。おまえのことを嫌いになんてなるわけがないだろ、と中学生の俺がいう。だが、 「違う!」 と、思わず声を出していた。 「それは、言えなかった言葉だ。言いたくて言えなかった。いつでも言える、明日でも、明後日でも言える、そう思って、言えなかった言葉だ。サク! ごめん。おまえなら許してくれる、いつでも会える、そう思っていたんだ」  不思議そうに、サクが俺をみる。しかし、もう一人の俺が、中学生の俺が、サクの背中に手をあてて連れていこうとする。一歩、二歩、だんだんと遠去かり、こちらの足は動こうとしない。振り返った俺が、にたりと笑う。その顔は、どろどろに溶けた泥細工のようで、こぽこぽと音を立てていた。 「その赤い糸を切ってやる。年をくって別人となったおまえなどお呼びでない。この娘が望むのは当時のおまえとの再会だ」  そして、その望みは叶わない。
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