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紙が、貼ってあった。
湯島天神のそれが有名だが、もちろん本宮である北野天満宮にもあり、いずれも現存する。奇縁氷人石は、月下氷人石、迷子石、迷子しるべ石など、さまざまな名前で、さまざまな場所に建てられていた。
行方知れずとなった我が子との縁、まだ見ぬ未来の夫や妻との縁を求める切実な想いに応えてきたのだろう。
それは迷信的なものではなく、実際的な意味を持っていたらしい。石碑の左右に、たつぬるかた、をしゆるかた、などと彫られ、迷子や結婚相手を探すための情報交換に使われていたのだという。いまではそうして使う人もいないが、逆に何某かの祈りを込めて使う人はいるかもしれない。橋の袂や盛り場にも設けられていたものであり、御利益などなくて当たり前なのだが。
まだ冷たい風に嬲られ、奇縁氷人石に貼られた紙がパタパタとなびいている。
たつぬる方か。誰かを探しているのだろう。祈りをこめて、いつかの俺のように。残念ながら御利益などないけれど。
「失礼なやつだの」
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