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年に1度開かれる武術大会
そこにあいつは参加していた
この国に今居る者ならば誰でも参加出来るとはいえ、剣を握ったことのない者や、実際にほんの基礎でも剣術というものについて教わったことがない者が参加するはずもなく、ほとんどは国中の兵士で、他は賞金稼ぎのような剣を扱える者達が僅かで成り立っていた。
どう見ても旅人のようにも、ましてや賞金稼ぎのようにも見えないそいつは、やる気こそ漲っていたが、誰もがすぐに消えると思っていた。
ところが、少しの運と、それを見逃さない天性の感。少しの運の悪さと、それを味方につける天性の閃き。
何故?と、まさか…が交錯する中、準準決勝まで勝ち残ったのだ。
まるで実戦に慣れてるとは思えない動きは、そこで打ち止められてしまったが、その日1番の喝采を浴びたのは、そいつだった。
あまりの才能を見せつけられた上層部が、珍しいことに、なんの地位もないそいつを城の兵士として雇い入れたのは、未だに信じられない。
そいつが来て3ヶ月程は、皆珍しがって声をかけていた。半年経つと、その才能を見せつけられ、いかに自分の地位や名誉が素晴らしいかを、そいつに語るようになり、1年経つと、煙たがられ、そいつを排除しようと考え出す奴までいた。
最初からあまり関わらなかったのが態度の変わらない奴と思われたのか、他の者達と群れないのが幸いと思ったのか、1年を過ぎた頃からそいつは話し掛けてくることが多くなった。
「ある時たまたま出会った旅の人がさ、しばらく泊めてくれないかって言うから泊めたんだけど、そのしばらくが1ヶ月にもなったのはさすがに驚いたね!」
聞いてもいないのに、自分のことをペラペラと話してくる。
「まあ、両親は早くに亡くなって、俺1人だったから、こんなボロ屋でいいならどうぞって感じだったんだけどさ」
そう言って剣を握り締める
「その人、沢山旅をしたんだって。沢山戦ってもう疲れたんだって言ってた。でも、せっかくだから剣を教えてよ!って言ったら、初めは嫌そうだったんだけど、毎日教えてくれてさ。1ヶ月経った頃、『お前には才能がある。これをやろう』って凄くいい顔して、この剣を残して去って行ったんだ」
確かに物としては、なかなか良い剣だ。だが、慣れない者にとっては扱いづらそうでもある。その剣をたった1ヶ月の指導と自分なりの鍛錬だけで、武術大会で準準決勝進出まで扱えるようにする才能があるのだから、その旅人が喜んで剣を託そうと思うのも理解出来る。
だが、才能に溢れているそいつは、いつも1人夕暮れまで鍛錬を続けていた。
初めて見付けた時、これ幸いと練習相手をさせられ、それからというもの、夕暮れ時にそこを訪れ、少しの練習相手をするというのが日課のようになってしまった。
疲れ果てているはずのそいつの顔はいつも幸せそうだった。
それを見るのは、何故だか心地がよかった。
自分がただ身に付けてきた知識や経験が、今こいつにこんな顔をさせているのだ。
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