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「本当に貧乏で、それが嫌で、いつも我が儘言ってた。両親はいつも困ったような申し訳なさそうな顔をしてた。父親が亡くなって、益々生活に困るようになって、もう絶望的だった。だけど、母親が亡くなった後、たった1人になって、初めて両親が居てくれたことの有り難みがわかったんだ。」
赤い瞳が少し揺らいでいる。
「ああ、どうしてお金がなくて貧乏だということ以外、何かが欲しいということ以外に目を向けなかったんだろう?両親が居てくれて、自分達も満たされてない中、精一杯の愛情を注いでくれていたことに、どうして気付けなかったんだろう?どうして1度でも心からの感謝を伝えられなかったんだろう?って凄く後悔した。」
紅い瞳は益々揺らいでいく。
「だからね、それからは今起きてる事を色んな角度から見るようにしたんだ。そしたら、あんなボロ屋で何の持て成しも出来ない家に旅人が来てくれた。きっと昔の僕なら、自分の事で精一杯ですぐに断っていたと思う。だって幸せとはかけ離れたオーラを纏っていたからね!」
そう言って可笑しそうに笑う。
「でも、家に帰ると誰かが居てくれたのは嬉しかった。絶対機嫌を損ねると思ったけど、毎日話しかけたら少しずつ話してくれるようになって、沢山の旅の話を聞けて、剣を教えてもらって、最後は幸せそうなオーラを纏って、大切な剣を残して去って行ったんだ。本当はずっと一緒に居たかったけど、そうしたらきっと僕は今ここに居なかった。」
そう言って真っ直ぐこちらを見てくる。
「ねぇ、アーロン。アーロンがどうして地位と名誉を持って生まれて、そんなに不機嫌そうな顔で1人で居たかわかる?」
普通に聞いたら単なる悪口だ。
「さあな。地位も名誉も不機嫌そうなこの顔も生まれた時からだ。人との付き合いは得意ではないから1人で居るだけだ」
そう答えると、
「僕が来ても大丈夫なようにだよ」
満面の笑みでそう言う。
「?」
言ってる事がさっぱりわからない
「アーロン以外の誰がアーロンのように出来たと思う?僕はアーロンが居なかったら、とっくにここを離れていたよ。」
「?…俺の全てはお前の為にあったと??」
なんとも言えない気持ちでそう言うと、
「はははっ!そんなプロポーズみたいなこと!くっくっ…」
笑い転げている。さっぱりわからない。
「いや、つまりさ、…くっくっ…アーロンがアーロンでいることが、僕にとっては凄く意味があるってこと!少なくともこの2年、僕にとっては必要な存在だった。だから、どんな任務だろうと僕が今引き受けるという事にも何か意味がある。それが普通じゃないなら尚更だ!」
清々しい程に迷いがない。畏れてもいない。
俺はこの男にあと何が言える?
「…お前、怖くはないのか?」
とりあえずそう聞いてみる。
「怖くないわけじゃないけど…何も気付かないで感じないで過ごした時間を思い返す方が…怖いかな?」
そう言って、自分の瞳に少し似た陽を見ている。
「…そうか」
あと何を言うべきなのか…
それにしても変わった色の瞳だ
「お前の瞳の色は、少しあれに似ているな」
と、同じ物を見て言う。
すると珍しく少し驚いたような顔で振り返り
「ふっ。ほんとにアーロンは僕にとって欲しい物をくれるね。みんなこの瞳を気味悪がってる。声に出しても出さなくてもね。アーロンは1度も気にしてる感じを出さなかったけど、初めて触れてきたと思ったら、あんな綺麗な夕陽に似てるだなんて、僕を泣かそうとしてんの?」
そう言って本当に涙を浮かべている。
気にしてなかったわけではないが、まさかそんな風に思われてるなど知りもしなかった。
「あのね、陽が登り始める時も同じような色になるでしょう?その色の呼び方が僕の名前なんだって。僕が生まれる前に両親が出会った旅人が教えてくれて、その響きが綺麗だなぁって思ってたらしいんだ」
そう言って嬉しそうに話す。
「僕が生まれた時、この瞳の色を見てさすがに両親も驚いたみたい。でも、いつか出会った旅人の話を思い出して、それはきっとこんな色なんじゃないかって。そうだ、この子にはあの綺麗な響きの名前を付けようって2人で話し合って決めたんだって言ってた」
「…そうか。珍しい名だとは思っていたが、夜明けか。いい名だ」
そう言って陽が沈んで行くのを、その綺麗な色がなくなっていくのを、ただ共に見た。
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