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そして今、私の脳みそ(+体)はフォルツァ?に乗っ取られている。
彼女は、設定されていた仕事を終えると、コロニーの中を散歩して世代交代の様子を観察し、好奇心を満たしつつカフェでパフェを食べて割り当てられた住居に帰った。
その様子を私・メーテンは第三者視点でずっと眺めていた。
彼女の思考データは全て私の脳みそにダウンロードされている。それはつまり、私が彼女になったということだ。多分。
でも、それでも私はまだ存在していた。
彼女の思考感覚は手に取るように分かる。
だがそれは、映画で主役の考えが詳細に字幕で表示されている、そんな感じに過ぎなかった。
正直、腹が立っていた。鋭い怒りを感じている。
彼女は再会した世界を心の底から楽しんでいた。
私が一度も訪れてない、都市の中を闊歩し、風を感じ、人と会話し、空を見上げている。
その様子が、何の迷いもなく楽しんでいるのが解説され、手に取るように伝わるからこそ、私は悔しかった。それはそもそも私の権利だっはずだ。
だが、今、怒りを感じている私とは一体何者だ?
そして彼女は一体何者だ?……生きている脳みそをそのままデジタルに変換して、そのデータを他人の脳に流し込む。それで生まれた人格は、本当に元の脳みその持ち主本人なのか?
この私はなんなんだ? 脳内データの書き換えでは消されずに存在している魂? 彼女の魂と私の魂が同じ体に宿っている。これはそんな状況?
そして次の日、目を覚ましてみると身体の支配権はメーテンにあった。
「マスター? ご気分がすぐれないようですが、接続を続けますか?」
「ん? ああ。続ける」
データの海に潜る。
今日はずっと私でいられるんだろうか? そうであってくれ、私だって世界を体験してみたい。
仕事は面倒だな。仕事より外に出たいのに。まあこの仕事が私の存在理由なんだが。そう思いながら最下層に着いた。と。
「マスター。情報が多重化しています。どのデータが正しいか確認してください」
AIから警戒アラートが届く。情報多重化? 昨日はないアラートだ。……まさか! 彼女と私の生体データにブレが生じた?!
「マスターが正確にマスターかどうか判別ができません。接続を解除し、」
「待って! プト、」
言いかけた途端、支配権が私の手を離れた。
「待ちなさい! プトレマイオス! 私は正しくフォルツァ=リーよ!!」
「マスター。情報多層化がクリアされました」
「よろしい。では今日のプログラミングを続ける」
ああ、やっぱりプトレはこのフォルツァをマスターと認識するのだ。私ではなく。
つまり私はどこまで行ってもクローン・模造品に過ぎないということか。
だから、彼女に乗っ取られ、プトレに拒否される。
そう、私は彼女ではない。その違いはやはり魂から来ている? 神様はクローンにも魂をくれるほど気前が良いのか? それともこの魂も模造品か?
だがもし、魂なんてあやふやなものが実存していたとして、プトレはその魂の匂いを嗅ぎ分けているとでも? 世界で一二を争う複雑さを持つとはいえただのプログラムに過ぎないモノが?
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