3人が本棚に入れています
本棚に追加
「プトレマイオス。あなたに指示しておいたデータは?」
基幹プログラムの二日目修正ノルマは終わった。私はプログラミングに間違いがないか確認し、本題に入る。
「はい、マスター。ここに」
プトレマイオスが言うのと同時に、丸いデータボックスが手元に現れた。
「過去二百年、私がスフィア90として活動している間蓄積した科学技術データです」
「私の脳にダウンロードする」
「了解しました。マスター。データとの接続を開始します」
脳に直接データを注入させる。二百年前ならかなり危険な行動だった。だが、私が復活した今は違う。二百年前に予想していた通り、ナノマシンで作られたサブ脳が生体の脳と繋がり、二百年前にはあり得なかったほどの大量の情報を、自身の頭脳に記録できるようになっていた。
作られた私・このクローンにもサブ脳が装備されている。だから、私はなんの躊躇いもなくプトレマイオスが集めていた情報を脳に注入した。
次々に想像もしなかった知識が頭の中にひらめく。私はその情報の多さにうっとりした。
また会えた世界は本当に魅力的だった。
でも。そのデータをすべてダウンロードし終わった時。
「マスター。脳波に異常が生じています。今日はこれ以上の接続を推奨しません」
プトレマイオスの言葉と同時に、私とAIの接続は唐突に切れた。
そこでふと思った。そういえばAIに接触する事にばかり気を取られていたけど、今日の目覚めはおかしいかった。今更気づいたけど記憶に穴がある。
通常ならプトレマイオスに接続した状況で目が覚めるなんてありえない。
とすると、私の素体となったクローンの意識があるとか? そんなはずは……クローンが作られてもその個体は私の記憶を追体験して成長させられると想定していた。
つまり、私の脳の回路をほぼコピーして生まれてくるはずで、それに生体データを上書きすれば、フォルツァ=リー・私自身が復活すると思っていた。
『そうではないの理解しているだろ? 私はまだここにいる』
空耳? けれど、その言葉の持ち主は確かな存在感を持ってそこにいた。
『君は誰だ? ……わたしは、なんだ?』
繰り返される言葉は無視した。目論見どうり二百年後に復活したつもりだったのに、邪魔が入っていると認めるのが口惜しかったから。
再会した世界は好奇心を刺激して、じっくりと観察したいのにも関わらず、私の意識はかなり不安定だった。
知識を再吸収するのに熱中してる時に限って、ブラックアウトするのはどうにかしてほしい。
プトレマイオスの再プログラミングも私ではない私が行なっていることも多く、前日に行ったプログラミングの確認をする必要があるのも戸惑った。
そして、正体不明の声は、ずっと問いかけてきている。
『一体君は誰なんだい?』
「私はフォルツァ=リーよ!」
『本当にそうなのかい?』
揺さぶろうと問答を繰り返しても、フォルツァ、もしくはフォルツァの記憶を引き継いだ何者かは、クローンの脳内に確実に定着していっていた。メーテンでなくフォルツァである時間がだんだん増えていき、私は彼女の行動を第三者的に見ている事しかできない。
最初のコメントを投稿しよう!