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「ヨハンまで、残ることなかったんですのに」
後ろの方から、ヴィルヘルミーナの声がする。
俺たちは結局、会場の奥の方に移動させられて、椅子に縛りつけられ、背中合わせにされている。こんな状態でいつまでもいることはできないと思うが、催した時は監視付きで連れ出してくれるらしい。俺はともかく、ヴィルヘルミーナはどうするのか、こいつらの中にも女がいるのか、これからの数時間について考えると、あまり考えたくはないイメージが浮かび上がってくる。
「……アリーシャには、あんたのお守りを仰せつかってるんでね。ここであんたを置いて一人、尻尾巻いて逃げ出したら、アリーシャに締め殺されかねない。あの女だったらやるね」
「勇敢ですのね。ヨハンは」
「んなこたないな。俺は戦えないし、戦いたいと思ったこともない。ああいう連中の勇敢さには及びもつかないな。……リヒャルト様や、エックハルト様なんかの」
と、その時だ。
「……あら?」
ざわざわとした空気にヴィルヘルミーナが気がついた。
今までの白服の連中とは違う、黒ずくめの集団が入ってきていた。黒い上着の下は身軽な服装らしく、また覆面を付けている。猫のように足音を立てず、隙のない身のこなしで、白服たちよりさらに油断ならなさそうだ。
「増援……か?」
俺は掠れ声で呟く。戦闘慣れした集団が彼らの仲間に加わるとすると、早期救出はさらに覚束なくなる。
黒服たちの真ん中にいるのは、端正な雰囲気、すらりとした背格好の男だった。
覆面をしていて、髪も帽子の中に入れているので分かりづらいが、見えている部分だけでも相当な美男子と分かる。
その立ち姿、その金色の目。
エックハルト……様、だった。
人違いかもしれない。
俺はその人物に目を凝らすが、彼はこちらに注意を向けようとはしてこない。白服の首謀者と、くぐもった声で何やら談判している。移送がどうとか、逃走経路がどうとか、そんな話をしているようだった。
聞き取りづらいが、エックハルト様の声だった。
(エックハルト様が、遺構崇拝者の仲間?)
そんな風に俺は考えていたかもしれない。
やがて、彼の仲間と思しき黒服たちが、俺とヴィルヘルミーナのところにやってきて、縛られていた椅子から解いて立ち上がらせる。
その男は俺の耳元で、小さな声で囁いた。
「ヨハン様。ヴィルヘルミーナ様。お迎えに上がりました」
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