第6話 遺構崇拝者と、立てこもりと、精鋭部隊

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「ヨハンまで、残ることなかったんですのに」  後ろの方から、ヴィルヘルミーナの声がする。  俺たちは結局、会場の奥の方に移動させられて、椅子に縛りつけられ、背中合わせにされている。こんな状態でいつまでもいることはできないと思うが、催した時は監視付きで連れ出してくれるらしい。俺はともかく、ヴィルヘルミーナはどうするのか、こいつらの中にも女がいるのか、これからの数時間について考えると、あまり考えたくはないイメージが浮かび上がってくる。 「……アリーシャには、あんたのお守りを仰せつかってるんでね。ここであんたを置いて一人、尻尾巻いて逃げ出したら、アリーシャに締め殺されかねない。あの女だったらやるね」 「勇敢ですのね。ヨハンは」 「んなこたないな。俺は戦えないし、戦いたいと思ったこともない。ああいう連中の勇敢さには及びもつかないな。……リヒャルト様や、エックハルト様なんかの」  と、その時だ。 「……あら?」  ざわざわとした空気にヴィルヘルミーナが気がついた。  今までの白服の連中とは違う、黒ずくめの集団が入ってきていた。黒い上着の下は身軽な服装らしく、また覆面を付けている。猫のように足音を立てず、隙のない身のこなしで、白服たちよりさらに油断ならなさそうだ。 「増援……か?」  俺は掠れ声で呟く。戦闘慣れした集団が彼らの仲間に加わるとすると、早期救出はさらに覚束なくなる。  黒服たちの真ん中にいるのは、端正な雰囲気、すらりとした背格好の男だった。  覆面をしていて、髪も帽子の中に入れているので分かりづらいが、見えている部分だけでも相当な美男子と分かる。  その立ち姿、その金色の目。  エックハルト……様、だった。  人違いかもしれない。  俺はその人物に目を凝らすが、彼はこちらに注意を向けようとはしてこない。白服の首謀者と、くぐもった声で何やら談判している。移送がどうとか、逃走経路がどうとか、そんな話をしているようだった。  聞き取りづらいが、エックハルト様の声だった。 (エックハルト様が、遺構崇拝者の仲間?)  そんな風に俺は考えていたかもしれない。  やがて、彼の仲間と思しき黒服たちが、俺とヴィルヘルミーナのところにやってきて、縛られていた椅子から解いて立ち上がらせる。  その男は俺の耳元で、小さな声で囁いた。 「ヨハン様。ヴィルヘルミーナ様。お迎えに上がりました」
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