第2話 姉と、公爵と、その側近

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 そんなこんなで、分かった話と、それから決まった話だ。  ヴィルヘルミーナは、その『野望』の実現のため、実家のリンスブルック侯爵家と決裂し、戦争状態にあるとのことだ。その実現までは帰らない、絶対に独り立ちしてやると息巻いていて、実家は実家でカンカンとのことだが、同時に解決方法を探ってもいるらしい。  解決の機会は半年後、ヴォルハイム新大公の即位式とのことだった。  数年前にヴォルハイム大公は不慮の事故で身罷られていたが、幼年の子息に大公位を継がせるには準備期間が必要だった。この度それが整い、大々的に即位式が行われるとのことだ。当然ランデフェルト公爵家も、それからリンスブルック侯爵家も招待されており、そこにヴィルヘルミーナが出向けば、和解の席を設けることができる。それまでの半年間は自由にやらせてやれば良いと、そういうアリーシャの見立てであるようだ。  だから、その半年間は俺はせいぜいお行儀よくして、お嬢様のお守りとしての役目を立派に果たせばいいらしい。二階はヴィルヘルミーナに明け渡して、俺は下宿人用の三階に移ることにした。ヴィルヘルミーナは遠慮していたが、あの女にも遠慮という感情はあったらしい。だがまあ、新しくて綺麗になっているとは言え、下宿人の住まいである三階を、彼女のようなお嬢様に当てがうわけにもいかないだろう。今は俺もいいご身分で馬車の送迎がついているので、日々の訓練である階段の上り下りが二倍に増えるだけの話だ。  もう一点、些細な話だが付け加えておきたい。ヴィルヘルミーナと俺、この家に二人だけで生活するのは流石に色々と問題が大きい。お嬢様の世話をするメイドを二人公宮から派遣して、この家で起居してもらうことにした。こうすることで俺の潔白は証明される。また、ヴィルヘルミーナは家事なんてしたことがないだろう。料理番兼世話係の婆さんだけで賄っている俺の生活とは違って、お嬢様が気分良く生活するには細かな気配りをする存在が不可欠だ。  だから、問題はない。この半年を耐えることさえ出来れば。  そう思っていたのだが。 「なんだこれ」  俺は茫然と呟く。 「あらヨハン! 驚きまして?」 「驚いたっていうか、驚いたわ」  たった一日後の話だ。俺は生活に関してはお互い干渉しないと(一方的に)約束して、工房の仕事に出たが、気になるのもあって早めに帰ってきた。  一日で、一階の様子は様変わりしていた。職人たちが家具を運び込んでいるし、カーテンを付け替えているし、照明の取り付けまで行っている。 「何を、やってんだ」  俺は、この数日間で一番、嗄れた声になっていたような気がする。 「お店ですわ! ここにわたくしのお店の第一号を開きますの! 各国のご婦人たちの憧れとなるような、素敵なドレスのお店を作り上げてみせますわ!」  意気揚々とヴィルヘルミーナは宣言する。俺は絶叫した。 「助けてくれ!!!」
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