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 もともと白い毛並みをしていることもあってか、色白なのがやけに際立つ。血色が良いとは言えない顔に少々痩せ気味な身体は、筋力も体力も、街で暮らす者と比べても弱々しく見える。見た目で判断するのは失礼だとわかっていても、場所が場所であるため問いたくなるのは必至だろう。  目的が何であれ無理をするなら引き返してほしい。そんな願いを含んだロウの問いに、男は眼を数度瞬かせてから大いに笑って返してきた。怒るでも不機嫌になるでもなく、その通りだなあと、朗らかに。 「額に角、鱗に、その毛並みの色。それに、ずいぶん強い獣の気配だ。そうか。きみが噂に聞く、新しい城塞の主の竜将閣下か」  男はやんわりとそう呟き、ロウへ眼を向けた。血の色が透けて見えるかのようなその色は、元から身体に色を持たぬ者のそれなのか、その者の種族の持つ特有な色なのか。  鼻先に濃い血の匂いが蘇りそうになる感覚を抑えながら、ロウは、そうだと肯いて返す。 「きみのように見るからに丈夫そうな人なら、さぞかし僕は頼りなく見えるだろうな。まあ、実際頼りないのはそうだから僕自身にも否定はできないけど」  男は、自分は生まれつき身体が弱かったからと自嘲した。  多少人より運が良く、暮しも豊かな方だったから成獣できたには出来たものの、体力は人並み以下だ。だからここに来るのは体力作りも兼ねての事だと語る。 「頂上からの景色が好きでね、たまに登るんだ。ゆっくり歩けば僕でも登れるんだよ。今はちょっと調子が良くないだけで」  でも、下山をする気は無い。少し休めばまた進めるからと男は強く突っぱねた。
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