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「古今東西、山とは命を喰らうものだ。喰らわぬ山は無い。喰らわぬというならその山は死んでいるか、山ではない。古い猟師や森で暮らす民なんかは己の死期を察すると山の土に還ろうと自ら森の深部の山へ入って行く者もいるくらいだ……」  でも、この山は人里に近いから、と男は静かに続けた。 「そんな風に望んで落ちた者はここでは少ないだろう。麓では行かせるんじゃなかったとか、飛ばせるんじゃなかったと、悔いた者らが多くあったはずだ。……だがそこは彼らが愛し、飛んで、眠って土に還った場所で、裾野に豊かな土と水と森を与え、そのときまで彼らの命を繋いでくれた場所でもある。だからこの山を完全に閉ざすわけにもいかず、憎むに憎めない気持ちとここで落ちていった翼が至った空へ近づこうとする祈りのようなものが頂まで続く道を付けてきたんじゃないか。――僕はそう思っている」  男がそんなことを語ってくれたと話した後、ロウは、く、と喉の奥で自嘲した。  我ながらおかしな事を尋ねたと一瞬だけ言葉を詰める。声が途切れ、沈黙が降ろうとした。そこで、中途半端に話を折るなと先を促したのはトキノだった。何を尋ねたのだと静かに問うと、ロウはそのとき吐いた言葉を紡ぐ。
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