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 先を行く男は足取り軽く岩場を飛び跳ねるように進んでいった。高山高地の気候の方が身体に馴染む種族なのだろうか、先日の弱った姿が嘘のようだ。  大きな岩をいくつも超えて、気づけば立ち込めていた雲は遙か眼下に広がっていた。視界は開けて、上にはまだ淡い夜の冷たさを残した青が伸びる。 「やあ、着いたぞ。ここが山頂だ。見てご覧、見事なものだろう」  男がロウを振り返る。  冷えた空気と少々荒くなった呼吸に喉の奥が少し痛んだ。ロウが顔を上げて見渡せば、雲の波は広範囲で陸を覆い隠し、ぽつりぽつりと島のように高い山の頭だけを覗かせている。  南側、雲の波打ち際がこの国の南の端。その奥に高く聳える山々が大陸を東西に二分する竜骨山脈だ。青白く輝き、ロウの鬣の色はあの色のようだと例えられる竜骨の万年雪は、今はぎらぎらと朝日の光を返し鏡のように光っていた。  静かに揺らめく雲と、ただそこにある山々の姿。人の営みは淡い光の底にあり、空の青だけが己の上にある。  確かに、見事だ。ロウは息を呑み言葉を失って、しばし広がる光景に目を奪われていた。 「雲の無い日なら、北にある丘の狼の国(ルプコリス)まで見えたりするよ。さらに空気が澄んで風も無ければその先にある海の国(リーストゥーラ)の端まで見えるという者もいたな」  男の白い毛並みが揺れた。ロウの髪色とはまたちがう、陽の光を含んだ雲の白さに近いそれは、立ち込める雲が風に乗ってここまで流れて来たかのようで、まるでそのまま消えてしまうのではないかと思うほどだった。 「――さて。先ほどきみが言ったことだがね」  男は静かに、遠くを見ながらロウに言葉を向けた。
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