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「山ならば気にする以前に何の感情も抱くことはない。命は生まれたら死ぬ、始まったものはいずれ終わる。特別は無く、死だけが平等に存在する。ただそれだけが本来の世の理だからだ。野に棲む獣もそちら寄りで、多少の感情や思考はあれど人ほど複雑ではないだろうな。……でもそうはいかないのが、獣の姿を持ちながらすべてが獣ではなくなった、人がつくる理というやつなのだろう」
言い換えれば。と男は続ける。
「希望を持つ、期待する。少し先のものへ望みを託す。ということが、人の理の内にある、人たるものではないだろうか」
「希望……」
「そう。例えば、己ではもう成し得ること叶わずとわかっていることでも、成すことの出来る誰かに想いを託して先へ進ませる。とか、ね」
ずる賢い者が行えばそれは悪事に転じる事になるし、暗い考えの元では破滅に向かうこともあるけれど。それ自体には色も形も無く、良いも悪いも背中合わせのものだからしかたない。苦笑する男の言葉に、ロウは沈黙で返す。
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