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「ということで、しばし休暇を取るということになった……」 「うん」  納得いかないという声で男から休暇を取る旨を伝えられたのは、夕焼けの色を髪に溶かした幼い形をした少女だった。少女は、男の言葉にうんと応えて柔らかい頬に笑みを刻む。  少女はしかし、その幼い顔にあまり似合わない口調で返した。 「良い機会じゃないか。この際、少し長めに休みを取ったらどうだ。そちらの仕事は都合をつけてあるのだろ?」 「しかし、俺だけそんなに休むわけにもいかんだろう。滞りが生じたとは言え、夏までに片付けなけりゃならん事は山ほどある。長くても三日……いや、やはり二日で充分だ」  男がそう返すと、少女は笑みを消し、困り顔で溜め息を吐いた。 「ロウ、お前は少し働き過ぎなところがある。少し気を緩めても良いというのに必要以上に気を張って、だから結果として近寄り難いなどと部下に言われてしまうんだ。群れを束ねる者がそんなことで良いと思うのかね」  少女は、言葉を拒む男、ロウへと少し強めに言葉を向けた。 「命令でも出さない限り休めないというならば、王として、将たるお前に命を下してやるけれど」 「トキノ……」 「休むときに休まなければ、いくら頑丈な体でもすぐに綻びが生じてしまうよ」  重ねた年の数でいえばとっくに成獣しているはずなのだが、訳あって幼いかたちのまま成長を止めているこの少女の名は、トキノ。沼の国(リーパルゥス)という、山間にあって小さいながらも一国として成る土地を統べる女王であり、この国で将の位に就くロウの主ということになる。  主従の関係ではあるものの、互いに気を許せる仲でもあり、公の場でなければ互いに向ける言葉は軽い。しかしそれでも、相手を制する威圧を込めてトキノは鋭い眼差しを向けてきた。ロウは反発せずに押し黙る。言葉を詰めたその頭上へトキノは告げた。 「十日、と言ってやりたいところだが、今のお前には長すぎるか。ではせめて五日は休めと命じよう。ひたすら寝て過ごすも良し、出かけるならばそれもよし。ただし、その間、御城にも、王城にも近づくこと能わず。これは、私の、命令、だよ。――いいね?」 「お前それは」  いくらなんでもと言おうとしたロウの言葉は、柔らかな笑みに封じられた。 「充分休んだら、またここへ戻ってきて、お前がその間どう過ごしたかの話を聞かせておくれ。楽しみにしておくから」
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