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 山肌を撫でる風が戻り始めると、眼下に溜まる雲に波が生まれる。流れて消えて行こうとする光景を前に、男は微笑んでロウに告げた。 「もしきみがまた自分の行いに自信が持てずに悩み出したら、この山でも、他の高い山でもいい、見上げてご覧。……もしそのとき山の姿がいつもより大きく感じたなら、そのときは素直に休んで仕事から離れることだ。山が大きく感じるときは己が縮こまっている証だ。……将がそんなことでは、と言うのは、止めておこうか。きみを追い詰めたいわけじゃ無いからな」  じゃあ僕はここまで。満足したよ。男が言うと、突如ひときわ強く風が吹いた。 「ああもうひとつ。少し時間をかけすぎた。山の下では騒ぎになっているかもしれないから、そこは自分でなんとかしておくれ。すまないね」 「えっ?」  巻き上がる雲の切れ端が一瞬視界を遮る。目を開けばいつの間にか雲は晴れ、先ほどまで確かにあった雲海と男の姿はさっぱりと消え去っていた。
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