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「随分と、良い休暇になったようだね」
休暇を終えたと報告に来たロウを、トキノは笑みで迎え入れた。表面上は笑みであったが、思いのほかロウの表情が穏やかなものに……比較するなら普段の彼よりもずっと安らいだものに変わっていたので、内心では少々驚きが勝っていたけれど。
「城塞にも居なかったみたいだし、お前、一体どこに行ってたんだ」
そう問うたのは、トキノの身辺警護兼、身の回りの世話をしている青年だった。
長い黒髪に狼族と似た形の獣型の耳をした青年は、今は主に御城務めで執事のまねごとをしているが、時としてロウの側近として振る舞うこともある。
立場で言えばこの場で一番低いのだが、トキノもロウも彼に平伏するようなことは求めなかった。むしろ対等な者として、彼らは青年を側に置く。
「塒にいても普段とやることは変わらんからな。……どうせ外をふらつくなら普段行かないような場所に行ったてみたらどうだと言われて。それでどこにするかとなったときに誰だったかが、山はどうかと言ったんで、山に登ってきた。――なんだ、俺に何か用があったのか?」
セイ、とロウは青年の名を呼んだ。
用はなかったが様子は気になったと言おうとしたセイの口は、しかしそれよりも気になった単語をそのまま返すこととなる。
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