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「え、山? 山に登った、って、登るだけか? 翼のあるお前が、わざわざ歩いて?」 「ああ。行って、登って、下りて来た。やったことと言えばそれで終わりだな」  ロウは言いながら、山の稜線を現すかのように指をゆったり上げ下げして見せた。  山登りなどというのは、獣の姿を取れば翼で空を行ける種族にとって特に意味を成さない行為だ。空を滑り、風を掴み、空路を使って越えてしまえるものならば陸路を行く必要が無い。飛べない種族の者たちだとしても、狩猟や採集、山の峰や谷を伝った先に目的地があるというならばいざ知らず、ただ山頂へ登って、下るだけという行いに意味を見いだす者は少ないのではないだろうか。  セイはただ疑問でしか無いという表情でロウを見る。ロウは、その疑問は否定はしないと笑って返した。 「山登り……というと。行き先は『飛べずの山』か?」  トキノが言えば、流石に国の主ならばそのくらいの当たりは付くかと頷いて返した。  沼の国は見渡す限りが山である。統一されない名を持つ峰から、古くから続く名を冠した頂まで。その中から特定できた理由は何だと、セイが続けた。  その疑問にトキノは答える。 「あの山の周辺は気流が複雑らしくて、昔から翼で飛ぶことを禁止しているんだよ。だから正式な名ではなく、広く飛べずの山と呼ばれるようになった。その禁忌、まあ縛り程度の決まりごとだがね、それを利用して、大昔に大鴉の種族の一部が翼を封じて山の頂に登って力を試すというようなことを始めたらしいんだ。今は大鴉に限らず、翼を使わずに頂を目指すことを目的とした者が登りに行くそうだ」  ただ山に登るだけというのも、そこに向かう理由になるのだろう。トキノがそう閉じて笑むと、まだ納得いかないのかセイは耳を倒してしまった。 「それ以外に理由を持って登る者もいるけれど、ただ登るだけという者の方が多いようだよ。何でも、癖になる、のだとか」
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