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飛べずの山は、正式名をミヤツネ山という。語源は不明だが、この場所に国が開かれる以前よりそう呼ばれていたらしい。沼の国北の都の管轄下にある比較的標高の高い険しい山で……もちろん、万年雪を湛える竜骨の峰々とは比べものにはならないが、山頂は複数の岩の峰を持ち、冬は周囲の山々よりも早めに白い衣を纏うほどには空に近い。
連なる峰の先は隣国と緩衝地帯となる深い森に繋がっていて、山を水源とする川が刻んだ谷もまた接する国との境となっていた。故に実質この山が沼の国の北東の端ということになる。
国境線となる川の他、麓の村の田畑を潤す水源でもあり、国内北部に広がる黒土の森という森を育む肥沃な土を作り出す山として、地元の者たちに愛され守られている山でもあった。
トキノが語ったように、複雑な気流を生み出すために周囲を飛ぶことは許されておらず、古くから己の足のみで山頂へ至るための力試しをする者があり、狩猟や採集目的に作られた獣道でも水源を管理するための細道でもない、ただ山に登るためだけの道が作られてきた。登山道の出入り口にある小さな村では山に入る者たちの数を数えていて、降りて来ない者がいれば探しに出るという徹底ぶりだ。
休暇の初日、ロウは麓の村に寄って水と食料と最低限必要な物を揃え、登山口にある村で一泊した後、翌日の早朝から山へ入った。
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