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「そこに誰か居るのか? ああ、あの、無理でない程度に助けてもらえると嬉しいんだが」  それに応えてロウは斜面を身軽に滑り降りた。しっかりと根の張った木を足場にして松の木まで辿り着けば、そこには松葉だらけになった真っ白い毛並みの色白な男が、鋭い爪を持った鳥型の足で必死に枝を掴み、強張る表情に笑みを浮かべて待っていた。 「怪我はないか?」  ロウが尋ねると、男は両手両脚を数度動かし、首を回して息を吐く。一連の動作が済んでから、腹の中身、それから頭と骨は無事なようだ、と返してきた。擦り傷程度はあるらしく、ロウが伸ばした手を取ったその甲には薄らと血が滲んでいた。色白な肌に血と土が入り混ざる色は痛々しさをさらに強める。  引き上げて道に戻ると、男は頭を下げた。砂塵にまかれて視界をやられ、足元がもつれてあのざまだ。すぐに気づいて貰えて助かった。そう礼を言う。 「まずはその擦り傷を洗った方が良い。俺の手持ちの水なら少し余裕があるから、これを使ってくれ」 「重ね重ね、ありがたい。助かるよ」  傷を洗い、汚れを拭き取って、砂と土と木くずを叩き落とす。最後に男は頭を振って頭に付いた松葉を払った。その仕草は四ツ足の獣が取るものよりも、鳥類の取るそれと似通っている。足先の形状と合わせて見ればなにがしかの鳥類族なのだろう。  しかし、そんなことよりも遙かに気になったことがあったと、ロウは言う。 「無礼なことだと承知で言うが、その……、あんたは一人で山に登れるような身体なのかい」  とっくに成獣しているだろうことはわかる。ロウと比べたら多少重ねた年はあるようだが、老齢というまでには至っていない。青臭さが消えて落ち着きを得た、壮年期の半ばほどだったけれど、何を取ってもこんな場所にいるべきではなさそうな雰囲気の男だったのだ。
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