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 睡眠だとか、食事だとか、それと同じくらい自分にとって当たり前のこと。私にとってそれは先輩を想うことだったし、あらたまって腕組みなんかしちゃったりしつつ(そういえば、いつからこんなふうに想うようになったんだろう)と考えたりしなければ、特に意識することすらなかった。  誰かを好きになることの理由をつけたがる女の子は私の周りに掃いて捨てるほどいたけれど、あんただって飲まず食わずじゃいずれポックリ逝くじゃんそういうことでしょ、と内心でチクチクといやらしいツッコミを入れる私は明らかな異端だった。ただし異端だったのがそれくらいならまだ可愛かったと思う。  明らかに一線踏み越えたなぁ……と思ったのは、先輩の進学する大学の名前を聞いて、それまで頑なに譲らなかった志望校をあっさりとそこに変えたときだ。親も教師も訝しげに「あんなにランク下げるの嫌がってたのに、どうしていきなり?」と訊ねてきたけれど、そんなもの構いやしなかった。誰だって三日間くらい徹夜したら、どんなに汚いベッドでもいいからとりあえず身体を横たえたくなるものなんじゃないの? それでも嫌だっていう人は立って寝るんだろうけど、私は横にならないと眠れないタチなので。  でも、私は先輩のためにここまで自分という存在を切り売りできるにもかかわらず、先輩が私と同じ高校生という身分のうちに、終ぞ一度も声を掛けることができなかった。一目惚れなんてそんなものだ。いくら憧れていたってすんなりと「前から好きでした私と付き合ってください今すぐに向こう数十年間」なんて言えるのはアイドルソングの歌詞の中だけ。それでパス回しがうまくいって大団円を迎えるのも同じ。  冷静に考えたら一発で全部うまくいっちゃうの怖くない? 裏があるんじゃないかなって思うもん。私はチビで痩せっぽちで、口の悪い母親をして「カマボコの板みたい」な身体だから、それ目当てっていう線は薄いだろうけど。っていうかそれが年頃の娘に対する言葉かよマイ母。貴女は練り物を冒涜していやしないか?   いや違うか、私はカマボコではなく、あくまで下敷きになってる板だもん。
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