君に会いに

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 今日は転校する阿坂のお別れ会だった。  最後の授業時間を使ってみんなでゲームをした後に、寄せ書きを渡してそれぞれが一言、阿坂にメッセージを言うことになっていた。本当は僕も「転校しても頑張って」と言うつもりだった。    阿坂とは幼稚園も一緒で、小学校に入っても互いの家に行ってよく遊んでいた。でも四年生になったころから僕が阿坂と遊んでいると「阿坂のこと好きなの?」とか「付き合っちゃえば?」と周りが言ってくるようになった。  否定してもしつこく聞いてきてうっとうしい。それになんだか女の子といることが恥ずかしく感じるようにもなって、いつの間にか呼び方もみうちゃんとから苗字になり、阿坂とはだんだん遊ばなくなっていった。  それでも僕と阿坂が仲が良かったのはクラス中が知っていた。だから最後ということもあってテンションが上がっていたはっしーが、僕の番に「とうまが告白するって!」とにやにや笑いながらはやし立てて来たのだ。  その言葉に阿坂と向かい合っていた僕は、頭が真っ白になり気づけばあんなことを口走っていた。  屋上前の踊り場まで逃げて来た僕が頭を抱えて小さくなっていると、近づいていた足音が階段の少し下の段で止まった。 「やっぱりここにいた」  響いた阿坂の声に肩が跳ねる。かくれんぼをしていると僕をいつも一番に見つけるのは阿坂だったから、こうなる予感はしていたけれど顔をあげられない。 とうま 「ちょっと無視する気? とうまのこと、みんな探してるんだよ。それに最後があれって、さすがに傷つくんだけど」  そうだ、僕のせいでせっかくの会が台無しになってしまった。  阿坂のことも傷つけて。  関東から九州に行ってしまう彼女には、もうこの機会を逃せば謝れない。  僕は覚悟を決めて、重い口を開いた。   「さっきは、その――」 「絶対に許さないから」 「えっ」  謝ろうとしたのに途中で遮られ、僕が思わず顔をあげると阿坂が口を尖らせて続けた。 「謝りたかったら会いに来てよ。……待ってるから」  阿坂はそれだけ言うと、僕を置いて階段を駆け下りて行く。言葉を理解すると同時に、僕は遠ざかるその背中に叫んでいた。 「お小遣い貯めて絶対に会いに行く!」  彼女は振り返らなかったが、小さく手を振ってくれた。  そうして僕が阿坂にまた会えたのは、次の年の夏休みだった。  新幹線のホームで「待たせすぎ!」と怒る彼女に謝ることは出来たが、なんだか前よりも可愛くなっていて、恥ずかしくて顔も見れなくなったのは僕だけの秘密だ。
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