標準画像の男たち

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 エブリスタが新作オンラインゲームのベータ版をプレイするユーザーを募集しているとのネット記事を見て、あなたは強い興味を抱いた。最大手の小説投稿サイトだけあって、その趣きが他とは大きく異なっていたためだ。自分の書いた小説がゲーム化され登場人物になりきってプレイできるとのことで、これは面白そうだと思ったあなたは応募してみた。  事前に様々な登録をするところは普通のオンラインゲームと同じである。  違うのは、その後だ。  自作小説(二次創作を含む)または粗筋をまとめた企画書を投稿するのである。  既に投稿済みの作品をプレイしたい場合は、そのURLを記載ともあった。  これらに基づいてAIが作成したゲームのシナリオをプレイするのだ。  早速あなたは連載中の作品URLをコピーペーストした。異世界転生ファンタジーである。  これで準備完了! と思ったら、もう一つあった。プレイする登場人物の外見を設定するのである。  用意された標準画像から男性の絵を選ぶと、ゲームが始まった。  男性プレイヤーを後ろから見ているアングルの画面が映る。  あなたは歓声を上げた。自分の執筆した小説世界に自分が入っているのだ。感動しないはずがない。楽しくてゲームの中の異世界を歩き回る。  やがて、あなたは気付いた。自分の他にも人がいて、異世界を歩き回っている。一人二人ではなかった。何十人いや、それ以上いるだろう。髪の色やマントの有る無し、それに背中に剣を背負っているかどうかという違いはあるけれど、同じ顔の男たちである。彼らもあなたを認識しているようで、チラチラ見てくる。  何人かに話しかけてみたが、無反応だった。  会話ができないのか、運営に問い合わせる。  答えは「ベータ版の第一バージョンでは不可能」とのことだった。  疑問は他にもあった。あなたの小説に、同じ顔の登場人物はいない。それでは、ここにいる連中は何者なのか?  運営によると、彼らはあなたと同じ利用者とのことだった。  自分の小説世界に無関係な他のユーザーが存在することに、あなたは違和感を覚えた。これも運営に訴える。運営側からの回答は「異世界転生/転移ファンタジーのジャンルは投稿数が多く、しかも同じような内容が多いため、AIが区別できなくなっている可能性がある」だった。  似たり寄ったりの作品ばかりなのは間違いないが、AIも見分けられないとは驚きである。だが、あなた自身も自作に他人の小説からコピペした文章を使う等パクリを日常的にやっているので、AIが混乱するのも無理からぬことだと思い直した。  同じような顔立ちと格好のキャラクターばかりだが、慣れてくると個性の違いが分かって来るものらしい。別に外見は大きく変わらない。背景の空模様が異なっているのだ。それはどうやら作品の深刻度によって変化するようだ。シリアスは暗い色で、ほのぼの系は暖色……かと思ったら暖かな感じの天気はあまり見かけない。もふもふファンシー小説はエブリスタには少ないのかもしれなかった。  その代わり、向かって左側を向いている同じ顔の男性の集団は多く目にした。黒っぽい空を背景にする者や緑の葉の間から顔を出している者、それぞれ髪の毛や瞳の色それに服装の違いはあれど顔は同じだ。また会えたね、と言いたくなる。  本の山に囲まれ胡坐をかいて膝の上に置いた厚い書物を読む同じ顔の青年たちもいた。いや、誰一人として書物を見ていないから本を読むふりをしているだけなのかもしれない。  結局その日あなたは同じ顔の男たちを見るだけで終わった。  区別ができなくて困惑したが、他の利用者によると「慣れると見分けがつく」とのことなので、明日もプレイしようと思った。異世界転生/転移ファンタジーだと同じことの繰り返しになる恐れがあるので『【小説投稿コンテスト】三行から参加できる 超・妄想コンテスト 第196回「また会えたね」』の募集ページに書いてあった以下の項目を使い、新作を書こうと決意する。 ・幼い頃に引越した初恋の幼馴染と、高校で再会。かっこよくなった彼に想いが再燃して……。 ・引きこもり男が久々に外出すると、なぜか色んな人から「また会ったね」と挨拶されて……? ・古い人形を捨てた翌日から、行く先々で“また会えたね”というメッセージと共に、その人形が置かれていて――。 ・戦争で生き別れた姉妹。いつかまた会おうと誓った二人は20年後、再会の時を迎え――。 親しい人や懐かしい人との邂逅は嬉しいもの。けれどもしそこに、なんらかの意図があったとしたら――?  これらを再利用した小説を書こうと思ったところで、あなたは疑問を感じた。  同じ顔の人間と何度も会うのは不自然だ。何か意味があるのでは?  しかし考えても考えても答えが出てこないので、あなたはそれ以上の思索を止めて寝ることにした。少し早いけど、おやすみなさい。
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