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「なにやってんの? お前」
カタン、カタンと小さく揺れる車内で、周囲を見回していた少年は、友人と思われる人物から話しかけられて笑った。
「人探し」
真っ白な歯と日焼けした肌のコントラストがまぶしい彼は、短髪と大きなスポーツバッグから察するに高校球児らしい。開襟シャツの袖から覗く二の腕は、幼さが残る顔つきに不似合いなほどがっしりとしている。
「倒れた時に介抱してくれた人?
まだやってたんだ。もう二週前の話だろ。無理があるんじゃねぇの?」
「見つかるまでやめないよ。
だって、オレは恋してしまったんだ。あの人のやさしさに。
朦朧としていて記憶は曖昧だけど、天使みたいな人だった。
だから、絶対に諦めない」
親指を立てた少年を傾きだした陽の光が照らした。
車内は彼らのような帰宅中の学生と定時帰りの社会人が大半を占めており、顔ぶれはほとんど変わらない。無理だと言う友人の言葉はもっともだ。
二週間探して見つからないのならば、相手は日頃別の時間帯に電車を使用している人物か、習慣的に電車に乗ることのない人物。もしくは、少年の過剰な賞賛が気恥ずかしくて身を潜めている――。
「あきらめたらそこで試合終了、は別のスポーツだぞ。さっさと諦めろ」
「野球だってな、野球はツーアウトからって言うんだよ。諦めるもんか」
違うスポーツを持ち出されたのが気に入らなかったのか、少年は友人の顔の前で素振りをしながら言い返した。
「はいはい、そうですねー。だからこそ、お前はあの日倒れたんだろ。後先考えないバカが」
「やさしくない言い方するなぁ」
「本当のことだろ」
「反省はしてるよ。迷惑を掛けたし……。だから、オレはあの人を探してるんだ。会ってちゃんとお礼が言いたい」
友人の厳しくもやさしいお小言に、少年はバツが悪そうに鼻の頭をかいた。
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