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「でも、やっぱ立派だろ。どんなにへとへとでも、クラスのみんなのために全力疾走するオレ。オレの頑張りがあったから、うちのクラスが優勝できたんぞ。オレのお陰。オレすごい。オレヒーロ!」
少年は誇らしげに笑った。
「お前は相変わらず、自己肯定感が高いな」
「褒め言葉として受け取って置く」
「ちっとも褒めてねぇよ」
「いいじゃん。自己肯定感高くて、損することなんてないよ」
「いいや。オレは今、お前のことをすこぶるアホだと思ってるから、お前は損してる。お前の株価は急落だ。ストップ安だ」
遠慮のない友人の言葉は、彼らの仲の良さを示している。
少年はニヤリと口の端を吊り上げた。
「ふふん。アホだと思ってても、オレのこと嫌いじゃないだろ」
「……腹立つ」
「オレの勝ちー」
「ふっ……」
あちこちで堪えきれなかった笑い声が漏れる。彼らの声はよく通る。微笑ましい内容も相まって、耳を傾けていた人は多かったようだ。
その時、少年はぐるりと視線を巡らせた。
「どうした?」
「今、あの人の声が聞こえた」
「顔は覚えてないのに、声は覚えてんのかよ」
「そう。低くて落ち着いた、奇麗な声だよ」
少年は歩き出した。人の合間を縫って、一番端の座席の方へ。
その足取りは確信を持っていて、探していた相手を見つけたのだとわかる。
獲物を見つけた猫のような、爛々とした瞳。
いやいやいや。ちょっと待って。
傍観者に徹していた私をどうして見つけてしまったの。
君のアオハルで私を染めないで。
あの日はたまたまいい感じに勇気が出せて、人にやさしくできただけなの。
周囲の、遠慮がちだけど興味津々な視線が痛い。
天使の正体が冴えないOLなんて、がっかり以外の何物でもないなじゃい。
「また会えたね、お姉さん」
けれど、少年は私の目の前で足を止め、心底うれしそうに微笑んだ。
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